電力販売を巡りカルテルを結んだとして、公正取引委員会が独占禁止法違反で大手電力3グループに総額1千億円超の課徴金納付命令を出した電力カルテル問題。中国電力が課徴金として過去最大の約707億円を支払ったのに対し、カルテルを主導したはずの関西電力は全額免除だった。背景にあるのは、違反行為を「自首」すれば適用される課徴金減免制度(リーニエンシー)。主導企業の「無罪放免」は許されるのか。制度の意義と限界が問われる事態となっている。
相互不可侵を提案
「ほかの電力会社を巻き込んでおきながら、一番に自白して処分を逃れている関電を社会的、道義的に許すべきでない」
中部、関西、中国、九州の大手4電力の株主が株主代表訴訟の一斉提訴に踏み切った10月中旬。大阪市内で会見した関電株主らの弁護団の河合弘之弁護士は、関電の姿勢を厳しく非難した。
カルテルは平成28年の電力小売り全面自由化をきっかけに、関電が大手3電力に「相互不可侵」を持ち掛けたことが発端とされる。公取委の認定などによると、関電は29年10月に事業者向け電力販売で中部、中国、九州の各エリアに進出する方針を決定。経営層が3電力を訪問して進出を伝える〝仁義切り〟まで行い、顧客獲得に向けた安値攻勢を仕掛けた。
だが収益悪化で翌30年夏ごろには方針転換。各社役員も含む幹部レベルが情報交換を重ね、互いの供給区域では営業活動を控えるとの合意が形成されたという。
そんな不可侵協定を白日の下にさらしたのが、リーニエンシーに基づく関電の自主申告だった。
アメとムチ
リーニエンシーは密室で行われ、証拠が残りにくいカルテルや談合事件の摘発のため、事業者に「アメ」を与える形で情報提供を促す制度だ。企業が自ら関与した違反行為を申告した場合、申告順位に応じて課徴金が減額される。公取委の調査開始前だと最初の企業は全額免除される上、刑事告発も免れる。
平成18年の導入当初は「密告を促す制度は日本の企業風土になじまない」と懸念する声もあったが、令和4年度末までに延べ423事業者に適用。東京五輪・パラリンピックを巡る入札談合事件の摘発にもつながった。
電力カルテル問題では、関電の申告を受けて公取委が調査を開始。今年3月に4電力の関与を認定し、関電以外の3電力に課徴金納付命令や排除措置命令を出したが、3電力は処分の取り消しを求めて提訴している。ある電力関係者は「持ち掛けた関電のおとがめなしはありなのか」と不満を漏らす。
割れる賛否
「首謀者がいち抜けする事態は想定されていなかったのではないか」。関電株主らの弁護団の富田智和弁護士は、リーニエンシーの有益性を認めつつも制度改革に向けた議論の必要性を指摘し、「株主代表訴訟を通じてあり方を問いたい」とした。
一方、ある公取委OBは、本来は違反を隠そうとするはずの主導した側が違反を最初に申告したことこそ、「リーニエンシーが機能していることの表れだ」と評価する。
申告順位のみで処分内容に差を設けるのは「公平な仕組み」と強調し、主導した企業の自首申告を制限する形になれば「かえって違反の発覚、是正が妨げられる」と慎重な姿勢をとる。
電力自由化の趣旨が骨抜きにされていた実態が明らかになった電力カルテル問題。司法が各電力会社の責任や賠償額をどのように認定するかによっては、リーニエンシーの是非を巡る議論が過熱する可能性がある。(桑村大)