「お金イコール愛情だから」。心から好きだと思い込んだ人にいわれた言葉が、女性の胸に深く刻み込まれた。
女性は当時18歳。東京・歌舞伎町の路上で誘われ、初めてホストクラブに入った。「かわいいね」「好きだよ」。きらびやかに演出された「非日常」の中で、浴びせられる優しい言葉。ホストへの恋心が芽生えるのに時間はかからなかった。「お金を使うほど愛してもらえる」と思い込み「好きになってほしい一心でどんどん使った」。
手持ちが尽きると、売り掛け(つけ払い)による支払いを勧められた。今度は「絶対大丈夫だから」という言葉を信じた。支払いが滞ったある日、ホストから提案された。「大久保公園に立てば」。路上売春だとは分かったが、「愛」のため、素直に従った。
それから2年。取り立ては時に度を超し、「(ホストへの気持ちは)もう解けた」。しかし、200万円近い売掛金は残ったままだ。
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《好きな人を押し上げるために姫はお金を使う》《あおらなくてもシャンパンが入る》
「姫」とは、女性客を指す。歌舞伎町を拠点とする「青少年を守る父母の連絡協議会(青母連)」が入手したホストの接客マニュアルには、女性をからめとる「技術」が記されていた。
狙われるのは特に、地方からの上京組だ。初回の料金は1時間数千円程度。2回目以降は、すぐに別の席に行ってしまう担当ホストに不満を感じさせ、「20万、30万使うと楽しさが全然違うよ」とそそのかす。
お金を使うことで、ホストの地位が上がることを見せつけ、虚栄心をくすぐって抵抗感を奪う。売掛金による支払いを持ち掛け、返済が滞れば風俗店へ。そんな「落とす」システムが構築されているという。
今月、女子高生に酒を提供したとして、歌舞伎町のホストクラブ経営者が警視庁に逮捕された事件では、女子高生が担当ホストの指示で路上売春をしていたことが判明。捜査関係者によると、ホストは友人と「ソープで働かせようか、AV(アダルトビデオ)に出させようか」などとやりとりしており、交際していると思い込んでいた女子高生への情はなかった。
青母連の玄秀盛代表は断言する。「ホストは仕方なく風俗で働いてもらうのではない。初めから『落とす』ことが狙いなんだ」
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歌舞伎町には300店ものホストクラブがひしめき合い、数千人のホストが在籍するとされる。新型コロナウイルス禍が明け、店に客が戻り始めると、自治体などに売掛金を巡る相談が急増。トラブルは後を絶たない。
高額な売掛金を巡っては、自治体の条例での規制を目指す動きがあるほか、政府も違法行為に対する警察の取り締まりを強化する方針を示す。
「若い女性たちがこの歌舞伎町で人生を棒に振るのを看過するわけにいかない。いま歯止めをかけなければ」。玄代表は危機感を募らせる。(外崎晃彦、橋本愛)