一連の広域強盗事件で強盗傷害罪などに問われた実行犯の男の一人に11月、東京地裁で懲役11年(求刑懲役13年)の判決が言い渡された。少年時代から「不良」として知られていたという被告。法廷では闇バイトに応じ、強盗に手を染めていった経緯が明らかになる一方、「暴力団相手なら金を奪ってもいい」という、ゆがんだ〝倫理観〟も垣間見えた。
長男の貯金に‥
検察側の冒頭陳述や被告人質問などによると、川崎市出身の福嶋幸也被告(25)は少年時代、教師に暴力をふるって初めての少年院へ。その後も実弟と一緒にひったくりをするなど、荒れた幼少期を過ごした。中学の卒業も、少年院で迎えたという。
少年院を出た後に仕事に就いたものの、生活苦から借金をするように。「一獲千金を狙い、ギャンブルに走った」結果、借金は膨れ上がり、100万円を超えた。交流サイト(SNS)で「闇バイト」と検索したのは、そんなときだった。
最初に応募した闇バイトは「物を運ぶ仕事」だった。闇バイトの担当者は逃走防止のため、保証金5万円を要求。手持ちがなかった被告は、妻の目を盗み、生まれたばかりの長男の将来のために貯金していた口座から、キャッシュカードで現金を引き出した。
だが、現金を振り込んだ後、担当者から連絡は途絶えたという。まんまとだまされた格好だったが、闇バイトを止めるという選択はしなかった。
令和4年8月と11月には、「シブサワ」「三島」を名乗る指示役のもとで、仲間と東京都内のトレーディングカード店に侵入し、販売価格計2千万円超のカードや現金を盗んだ。
だが、被告に報酬として渡ったのはわずか28万円。「割に合わない」。そう思い始めた被告が、割りのいい闇バイトを探す中で巡り合ったのが、「ルフィ」と名乗る一味だった。
「これで最後」
1回で500万円-。
数ある闇バイトの中でも「ルフィ」と名乗る人物が提示した報酬は、ひときわ高額だった。
「これで借金を返済し、闇バイトは最後にしよう」。被告はルフィの話に乗った理由を、法廷でこう振り返った。
持ち掛けられた〝仕事〟は強盗だった。
「奪うのは暴力団が野球賭博で集めた金だ」。匿名性の高い通信アプリを通じ、ルフィはこんな説明をしたという。
後ろめたいカネのため、被害者は被害を警察に申告できず、捕まらない-。「暴力団が悪いことで集めたカネ。悪いことで取られても仕方がない」。被告はそう考え、中野区の現場に向かった。
12月5日午前10時47分ごろ。ルフィらが集めたとみられる面識のない男らと集合した被告は、中野区の民家へ押し入った。宅配業者を装い、対応するため出てきた住人を襲う作戦だった。
他の実行役から少し遅れて家へ入った被告。既に1階で40代の住人の男性が殴られていたのが見えた。だが、男性には暴力団特有の入れ墨もなく「普通のサラリーマン風だった」。恐怖におののく男性が暴力団関係者ではないと、ようやく気づいた。
「やばいから逃げよう」。被告はそばにいた共犯者3人に声をかけ、応じた1人とともに民家から立ち去り、自宅まで逃走した。
「最後」と決めた闇バイトで報酬を手にすることなく、被告はその後、警視庁に逮捕された。
「女には頼らない」
「(自分が)絡んでいる人間が、不良しかいない。居場所は、そこにしかないと思っていた」
公判でそう打ち明けた被告。ただ、被告には妻がおり、母もいた。頼れる人間が周りにいなかったわけではなかったが、妻には「弱音を吐きたくない」、母親についても「女に頼るべきではない」と考えたという。
被告人質問では「暴力団であろうと、一般人だろうと、人から金を奪うのはダメだと思う」と話し、最終陳述でも「更生に向けて精進していきたい」と、反省の言葉を口にした被告。
浅香竜太裁判長は「被害者に暴行を加えたり、現金を奪ったりしていない」とは認定したものの、暴行を加えるつもりで被害者宅に押し入った点を指摘。懲役11年を言い渡した。
弁護側は判決を不服として東京高裁に控訴している。(橘川玲奈)