「一生刑務所から出さないで」《熊谷27歳女性絞殺事件》被害者の姉が怒りの告白 殺人から傷害致死にトーンダウン、控訴審は数分で終了、被告に反省の色なし…「私は絶対に許さない」

12月22日、顔の輪郭を覆い隠すほど伸びた髪、白いラインの入った黒いジャージのズボンにフリース姿で、被告人は東京高裁第429号法廷に現れた。傍聴席や裁判官など周りを見渡すと、刑務官に連れられ、被告側の席についた。
被告人の名前は、冨田賢(すぐる、34)。この日、2021年9月に亡くなった宮崎英美さん(当時27)への傷害致死の罪で起訴された冨田被告の控訴審第1回公判が行われたのだ。
だが、被告人側から新しい事実取調べの要求はなく、この日はものの数分で閉廷。パーティションで目隠しされた形で法廷に立った宮崎さんの姉が「え、もう終わりですか?」と疑問の声を上げるほどだった。
宮崎さんの姉が声を震わせて言う。
「私は、妹の命を奪った加害者に、死刑にはできないとしても、刑務所から一生出てきてほしくない。それが正直な思いです」
◇◇◇
埼玉県熊谷市の自宅アパートで宮崎さんの絞殺死体が発見されたのは、2021年9月6日のこと。1カ月半後の10月21日に埼玉県警に逮捕されたのが冨田被告だった。
2021年6月にSNSアプリを通じて宮崎さんと知り合った冨田被告は、宮崎さんの自宅を何度か訪れ酒を飲むような関係になっていた。宮崎さんの遺体が発見される3日前の9月3日にも、冨田被告はレンタカーで宮崎さんの自宅を訪れていた。彼女が死に至らしめられたのも、この日だったとされている。
東京都西国分寺市に生まれた冨田被告。学生時代には音楽活動に勤しみ、バンドで食っていくことを目指し高校を中退。
「20代前半で一度結婚し、子供も産まれたそうです。それを機にバンドをやめて、工事現場で働くようになった。結局、冨田のモラハラとDVが原因で数年で離婚したみたいです」(当時を知る同級生)
その後は、風俗店の送迎ドライバーとして働き、無断で辞めるなどを繰り返していたという。そして、その日暮らしの生活の果てに、若い女性を殺めてしまったのだった。
当初の冨田被告の逮捕容疑は殺人罪だった。ところが、逮捕後にトーンダウンしていく。
「捜査機関による事実誤認で、冤罪です」
「遺体や現場の状況などを捜査した結果、『冨田被告が首を圧迫して死なせたものの、殺意を認定できない』という理由で、最終的に傷害致死での起訴となった。宮崎さんが遺体で発見された際になくなっていたアイポッドタッチも発見されておらず、事件の全容が明らかになったとはいえない状態でした」(社会部記者)
今年3月にさいたま地裁で開かれた裁判員裁判では、冨田被告は「捜査機関による事実誤認で、冤罪です」と無実を主張した。
しかし、冨田被告が宮崎さんの自宅にいたことや同日に宮崎さん宅を訪れていた訪問看護師が裁判で証言したこともあり、検察は「窒息死するまで絞め続けた犯行態様は危険で悪質。不合理な供述に終始し、反省の情がない」として懲役10年を求刑。そして今年3月10日、小池健治裁判長は冨田被告が事件のあとLINEのアカウントを削除したり、事件のニュースや捜査対応についてネットで検索し始めたことについて、「犯人性を推認させる」と指摘。懲役9年の判決が言い渡されたのだった。
「判決理由で強調されたのが、事件について反省をしていないという冨田被告の態度です。小池裁判長は被告人が『不合理な弁解をするなど一切の反省は認められない』と断じていました」(地方紙記者)
一審判決後、検察は控訴を行わなかったが、冨田被告は控訴。そして12月22日、冒頭の控訴審が行われたのだった。
殺人から傷害致死へのトーンダウン。反省の情を見せることがない冨田被告……。こうした出来事に胸を痛めてきたのが、宮崎さんの姉だ。
姉は、今回の控訴審で読み上げようと意見陳述書を作っていた。そこにはこう綴られている。
〈妹の命を奪った加害者を重く裁き、責任逃れをさせないでほしい。妹の命を奪った加害者を刑務所から出して欲しくないです。人の命を軽く見ないで欲しい。正直なところ、加害者に対する地方裁判所の判決の内容は甘すぎると私は思いました〉
しかし、この日、意見陳述書を読み上げる機会はなかった。姉が言う。
「当日、読み上げる時間があるかもしれないということで、自分の気持ちを陳述書にまとめていました。裁判の場で語ることで、裁判官や被告人、世の中の人達に遺族としての苦しみを伝えたかったのです。しかし、発言の時間も与えられず、控訴審はあっという間に終わってしまい、とてもショックでした」
さらに姉は、悲痛な胸の内を語る。
「妹はまだ27歳でした。どれだけ苦しく、怖い思いをしたか。毎日妹の痛みのことを考えて、悩み続けています。一生心の傷は消えません。妹の命、人生、家族の幸せ、笑顔、その全てを奪った加害者が許せません。傷害致死になってしまったけど、私は殺人で立件してほしかった」
「刑務所から出てきた時に、逆恨みをされるんじゃないか」
現在、姉は冨田被告の存在に怯える日々を過ごしているという。
「第一審の裁判に全て参加し、加害者の発言の内容を全て聞いていましたが、言っていることも二転三転しており、加害者には反省の色が全くありませんでした。刑期を終えて刑務所から出てきた時に、逆恨みをされるんじゃないか、妹と同じ目に遭わされるんじゃないか。そんなことまで考えてしまい、とても怖いです」
控訴審の判決日は来年2月14日と発表された。冨田被告の刑が確定しても、遺族の心の傷が癒えることはないだろう。
(「週刊文春」編集部/週刊文春)

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