政治資金オンブズマンの上脇博之代表は「政治とカネ」を告発し続け100件超。「自民党の5派閥の政治資金パーティーの収入明細不記載」を告発し裏金捜査のきっかけをつくった人物だ。長年、政治資金収支報告書をチェックするなかで、スルーせざるを得ない政治家のセコい政治資金流用疑惑について聞いた。
過去には河井克行・案里元議員の不正も暴いた
自民党の5派閥の政治資金パーティーの収入明細不記載問題。派閥が裏金づくりに利用してきたのではないかと東京地検特捜部の捜査が行われ、報道メディアも追随している。この問題を告発したのは神戸学院大法学部教授の上脇博之氏だ。今回だけでなく、政治資金オンブズマン代表として、数々の告発を行い、全国ニュースになることもたびたび。告発件数は少なく見積もっても100件は超えるという。
政治資金オンブズマンの雄と言っても過言ではないだろう。過去には、河井克行・元衆議院議員、その妻である河井案里元参議院議員、安倍晋三後援会の「桜を見る会前夜祭」事件、薗浦健太郎元衆議院議員などの違法行為を告発している。
神戸学院大法学部教授の上脇博之氏
違法行為を見つける方法は手間はかかるがシンプルだ。政治資金規正法では、20万円を超える政治資金パーティー券の購入があった場合、金額や購入者名などの明細を収支報告書に書かなければならない。例えば、パーティー券の購入者である政治団体Aの収支報告書に20万円を超える支出があれば、それを売った派閥の政治団体Bの収入明細に記載がなければおかしい。その有無をひとつひとつチェックすることで、不正を浮かび上がらせることができる。その手法で今回のように全国ニュースに至るものもあれば、政治とカネの問題として違法の疑いはあるものの、告発するまでには至らない支出も数多くあるという。そこで、上脇氏に政治資金規正法上の収支報告書をチェックする中でたびたび目にする「セコい不適切支出」について聞いてみた。
収支報告書チェックはかなり時間がかかる…
──「違法の疑いのある政治資金」は簡単に見つかりますか?違法の疑いのある政治資金はたびたび目にするのですが、スルーしちゃうことがほとんどです。やっぱり収支報告書のチェックって、かなり時間がかかっちゃうんものなんですよね。僕も大学教授の仕事も抱えていますので、そこまで時間を大きく割けるわけじゃないんですよ。だから明らかに違法なものを見つけるのがメインとなっています。──違法かどうかはわかりづらい場合も多いと……違法だと言いたいんだけど、なかなかそれが言いづらい。調べたら場合によっては違法になり得るようなケースが多いです。例えば、元東京都知事の舛添要一さん。本来だったらポケットマネーで行かなければいけない家族旅行に政治資金を使っていた。でも収支報告書を見ると政治活動のような形(会議費)で書いてあったんですよ。で、これをもってすぐ違法とは断定できない。ところがこの疑惑を記者さんが取材されて、のちに家族で行っていたことが判明します。それだったら政治団体が支出する義務がないので、虚偽じゃないかと…支払い義務がないですからね。このように収支報告書を見て、即違法だと断定できない場合、のちの取材を通してグレーが黒になったりします。やっぱり時間がかかるってことですね。──舛添要一さん、セコいですね(笑)。ほかにも判断が難しいケースはありますか?東京都知事の小池百合子の花代があります。約208万円の支出(2009年から6年間)。なんで花代があんなにかかるんでしょうか? 収支報告書には「花を買いました」という支払いなので、生花店の名前しか書いてないわけですよ。誰にあげましたというのは書かれてない。
選挙区内の人へのお祝いとかお葬式とか、そういうのを政治団体から出している可能性があるんです。選挙区内の者に渡すとなると、これは寄付に該当し、収支報告書に詳細を書かなければならない。でも書いてない。ひょっとすると公職選挙法違反の可能性があるにも関わらず、断定ができないんですよね。詳細がわからないから。本人が結婚式やお葬式にご祝儀や香典を持っていくケースはセーフだけど、秘書さんが持っていったらアウトなんですよ。つまり、このケース、その政治団体の支出ってなると「本人が持って行った」とは限らないと思いますね…。
その飲食代「プライベートじゃないんですか?」
──最もよく目にする怪しい支出はなんですか?飲食代を会議代の名目で出しているのが目立ちますね。中華料理店とか、いろんな飲食店に行っている。これを政治家は政治活動だというわけですよね。目的を逸脱して使っている可能性があります。普通だったら「ポケットマネーから出さないといけない。プライベートじゃないんですか?」って思うんですよ。会議をするんだったら事務所でできるはずです。なんでそんな高級なお店とか居酒屋、スナックでやるんですか。会議で飲食をする必要があるんですかね。例えば、地元の人が東京に来たから接待をしたなど、そういう場合もあるのでしょうが、それはやはり政治活動じゃない。特に自民党なんかそうだけど、お金があり余っているんですよ。なんでかというと政党交付金がもらえ、さらにパーティーをして資金集めができるから。今はバブル経済の時代よりも政治資金が多いんですよ。
──会議名目でスナックに行っているんだったら、キャバクラにも行ってそうですね。もちろんキャバクラも行っています。でも政治資金収支報告書には、キャバクラの店名が書いてないわけですよ。通常、その運営会社名が書いてあったりする。それで調べづらくなっています。地元の人が見たら、すぐにキャバクラだってわかるんだろうけど、僕らオンブズマンにはすぐに判断できないわけです。しかも件数が多いので、ひとつひとつ調べて、これがキャバクラかどうかを調べるのは骨が折れる作業です。報道機関の取材が入って、やっとキャバクラやスナックに行ったお金だったってことが分かるわけです。
コンパニオン料が10万円の政治パーティ
──すぐには判断できないものが多い中、露骨なものはありませんか?すごくわかりやすいのは、政治資金パーティーになぜかコンパニオンを呼んでいたというのがあります。セコいという表現が妥当かどうかわかりませんが、正式な政治パーティーにコンパニオンを呼ぶ必要はどこにもない。これは、日本維新の会の馬場伸幸(衆議院議員)さんっていう人の講演会の収支報告書を見たときに、毎年のようにありました。コンパニオン料が10万円。ホテルの人員では足りないから、多分お手伝いとして呼んでいるつもりかもしれないんだけど、馬場さんの講演会の職員だっているはずなので、どう考えても無駄な支出をしていますよね。
──お酌するために女性コンパニオンが派遣されていた時代があると聞いたことはありましたが…最後にお聞きしたいのですが、こうした不正を正すためにはどうすれば…政治資金は、支出で絞ろうと思っても政治活動だって居直られるので難しい。だからお金の「入り」を絞らないとだめだと思います。だからまず政党助成法を廃止にする。あと企業献金もなくしたい。どう考えても会社は利益を追求する法人ですから、そこから寄付をもらって、会社が自分たちの利益にならないことをするはずがない。企業献金は憲法違反だし、違法でもあると思っています。取材・文/集英社オンライン編集部