自民党派閥の政治資金規正法違反事件が疑惑のステージを変えつつある。政治資金パーティーのノルマ超過分の収入をキックバック(環流)させてつくる裏金の一部が、「選挙の資金」として議員に渡っていたとの見方が強まっているためだ。早くからこの見立てを展開してきた識者は「捜査の状況は大きく変わってきた。なぜ安倍派が“一強”の最大派閥として君臨できたかを解き明かすことができる可能性もある」と説く。
東京地検特捜部は松野博一・前官房長官や萩生田光一・前政調会長ら安倍派幹部に事情聴取を行なったが、裏金を受け取った議員側の責任追及にまで本当に辿りつけるのか、疑問視する見方もあった。
元東京地検特捜部検事で弁護士の郷原信郎氏は「政治資金規正法に潜む欠陥が問題になる事案だ」と指摘する。
「パーティーを主催した清和政策研究会(安倍派)の政治資金収支報告書については、正しく記載しなかった派閥の会計責任者に虚偽記載罪が成立するのは明らかです。しかし、派閥幹部の国会議員との共謀が成立するかと言えば、還流の慣行継続を決める立場にあった元会長の細田博之氏はすでに11月に死去しています。さらに大きな問題として、裏金を受け取った国会議員を処罰できるかというと、規正法には大きな欠陥があって突き詰めるほど処罰するのが難しい」
裏金を「どこに記載すべき」だったかが特定しにくいという問題
ちょっと待ってほしい。裏金を受け取った事務所の会計責任者はもちろん、その“上司”である国会議員まで含めて起訴され、処罰されるのだろうと考えるのが国民の自然な感情だ。だが郷原氏によれば「高いハードルがある」という。
「政治資金規正法は、収支報告書に記載すべき内容を記入しない行為を虚偽記載罪として処罰する立て付けになっています。ところが派閥から還流してきた裏金は、“表に出さないお金”であるため、“どこに記載すべきだったのか”がはっきりしない。
国会議員は通常、資金管理団体のほか、自身が代表を務める政党支部、関連する政治団体など複数の“財布”を持っていますが、そのうちどの団体の収支報告書に記載すべきかが特定できないということです。特定できない以上、特定の収支報告書への記載義務に違反したという犯罪事実を構成しづらいのです」(郷原氏)
実際、4800万円の裏金を受け取った疑いがある安倍派の池田佳隆衆院議員は「党から清和会(安倍派)を通じて支払われる政策活動費と認識して記載していなかった」と弁解したが、これは「(現行法上、領収証の発行が必要ないとされる)政党から個人あての寄付であって、報告書への記載の必要はないと考えていた」という趣旨の言い逃れだ。派閥からのキックバックであれば「政党からの政策活動費」ではないにもかかわらず、起訴できない可能性があるというのが郷原氏の指摘だ。