多摩動物公園(東京都日野市)はコウノトリやオジロワシなど希少種の展示や繁殖を通して野生動物の保全に取り組んでいる。そんな同園が2023年2月、危機に直面した。国内の野鳥での発生報告がなかったツクシガモや世界的に希少なソデグロヅルに高病原性鳥インフルエンザが発生したのだ。臨時休園した53日間、対応にあたった獣医師や、危機の中でハイイロガンの繁殖を成功させた飼育担当者に話を聞いた。【斉藤三奈子】
始まりはカモ池の異変だった。2月11日と14日、飼育していたツクシガモ3羽が相次いで死んだ。14日午前、飼育動物の死を記載した黒板を見た同園動物病院係長の獣医師、山口歩さん(59)は「同じ場所で同種類の鳥が立て続けに死ぬのはおかしい」と思った。
野生のカモ類の中には、鳥インフルエンザウイルスに感染しても健康に影響することなく過ごす種もある。
しかし、冷蔵保管していた死亡個体の鳥インフルエンザ簡易検査を実施したところ、3羽とも陽性だった。同日夕、同じ池で飼育していたツクシガモ1羽の陽性も確認され、安楽死処置した。さらに15日、ツクシガモ1羽の死骸が見つかり、同園は防疫体制強化のため16日から臨時休園に踏み切った。
17日、国立環境研究所で実施した遺伝子検査の結果、先に死んだ4羽の高病原性鳥インフルエンザが判明。カモ池で飼育していたツクシガモやアカハシハジロなど残るカモ類26羽を安楽死処置した。カモ池では、その後も職員が防護具に身を包み、消毒作業に追われた。
同園の面積は52ヘクタール(東京ドーム約11個分)に上る。休園前の1月末時点で、国の特別天然記念物コウノトリや種の保存法に指定されている貴重なイヌワシなど鳥類84種846羽を飼育していた。
山口さんは「昨シーズンは鳥インフルエンザの発生が早く、近県で散発的に確認され気をつけていた。(それだけに)検査結果を知った時には言葉にならなかった」と振り返る。しかし、思いとは裏腹に、同園は希少な鳥の感染という、恐れていた新たな事態を迎えることになった。