発生2週間 不衛生トイレ関連死リスクも 続く断水 専門家、2次避難を推奨

発生から2週間となった能登半島地震。避難所では、トイレの不備や不衛生さが深刻な問題となっている。被害が甚大だった石川県の珠洲(すず)市や輪島市などでは断水が続き、仮設トイレの配備も課題だ。専門家は「災害関連死の多くは不衛生なトイレ環境が原因だ」と警鐘を鳴らす。
「ひどいときは排泄(はいせつ)物があふれんばかりの量だった。座ったらつくんじゃないかと思うほど」
7日午後、珠洲市役所に避難していた女性(47)は過酷なトイレ事情を打ち明けた。
元日に同市内の実家で夫や娘3人と被災。翌2日から市役所の避難所に身を寄せた。市役所は、地震直後から各階のトイレを多数の避難者が利用。市職員が時折掃除していたが、排泄物の上に排泄物がたまって悪臭が立ち込めるようになった。
同市では5日ごろから各避難所で仮設トイレの設置が始まったが、女性は「水分摂取は控えめにしている」と疲労感をにじませた。
石川県によると、13日現在、避難所や病院などに計500基超の仮設トイレを設置。経済産業省と国土交通省が被災自治体から需要を聞き取り、順次導入が進む。
ただ、道路の寸断で孤立集落への輸送に困難があるなど厳しい状況にある。輪島市では15日現在、避難所150カ所のうち設置済みは52カ所。病院なども含め計251基設置したという。輪島市の担当者は「ここまで断水が長期化する想定はなかった」と話す。
健康状態に懸念
浄水場の被災や配水管の破損もあってトイレ復旧のめどが立ちにくいなか、懸念されるのが被災者の健康状態だ。
内閣府などによると、平成23年の東日本大震災や28年の熊本地震などでは被災者がトイレの使用を減らすために水分や食事を十分取らないことで体調を崩し、災害関連死につながる事例が頻発した。体力の低下で免疫力が落ち、感染症にかかるリスクも高まる。実際、被災地では新型コロナウイルスやインフルエンザを含む急性呼吸器感染症やノロウイルスなどの消化器感染症に罹患(りかん)する人が拡大。石川県によると、13日現在で急性呼吸器感染症は142人、消化器感染症は24人という。
災害時の危機管理に詳しい愛知県立大看護学部の清水宣明教授は「トイレを我慢することは非常にストレス。水分摂取を控えると脱水症状を起こし、高血圧やエコノミークラス症候群といった深刻な症状を引き起こす」と強調。災害関連死のリスクを減らすためにも「国や県が積極的に高齢者ら災害弱者を被災エリアの外に避難させるべきだ」と指摘している。
災害時のトイレ どうすれば
トイレの復旧が難しい中、被災者の健康を守るためにできる対策は何か。清水教授は「順番待ちをせずに済むよう、利用できるトイレの数を確保すること。プライバシーや、使う人の尊厳が守られることも必須条件」と話す。
仮設トイレが未設置の場合、屋内であれば、幕を張るなどした上で、バケツに袋をかぶせて用を足し、終われば1カ所にまとめて捨てる。屋外なら穴を掘り、終われば埋め戻すといった簡易的なトイレの設置が必要だ。
「段ボールを利用してもよい。形にこだわらず、早く広範囲にトイレを行き渡らせることに注力すべきだ」と清水教授。その上で仮設トイレの運搬を急ぐよう求める。
仮設トイレが設置された場合、維持管理も重要だ。NPO法人「日本トイレ研究所」(東京)の加藤篤代表理事は「仮設トイレが和式だと高齢者や子供は使えない。照明は備えているか、衛生面が保たれているか、しっかりと管理しないといけない」としている。(倉持亮)

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