能登半島地震で断水や停電が続く石川県では、発生から3週間となった22日も避難所で1万人以上が暮らす。地元を離れて、ホテルや旅館などへの2次避難に応じる人は少ない一方、自宅に戻って暮らす被災者が増え、自治体からの支援が届きにくくなっている。(有馬友則、夏目拓真)
今も140人あまりが身を寄せている輪島市のふれあい健康センター。福祉施設職員の男性(47)は「2次避難してはどうか」との市からの打診を断った。
70歳代の寝たきりの母親がいる男性。2次避難先まではバスで移動すると説明されたが、母親を5~6時間もバスに乗せるのは難しい。自宅は断水が続き、戻ることもできない。「避難所は感染症が広がっている。できれば衛生環境の良いところに移りたいが……」。苦しい心境を打ち明ける。
同センターには発生翌日の2日時点では662人が避難していた。このうち2次避難に応じたのは2割にあたる127人。6割は自宅に戻ったり、自主的に市外などに移ったりした。現在も避難所で生活しているのは2割で、男性のように家族や仕事の事情を抱えて、動けないケースが多いとみられる。
珠洲 市の避難所の一つ、 直 小学校も状況は似ている。避難者は最大で250人いたが、2次避難を選んだのは2割どまり。5割は自宅や親戚宅に移ったが、3割が今も避難所に残る。
造園業の男性(62)は21日、妻と2人で直小を出て、すぐ近くの自宅に戻った。家具が散乱したままの居間に布団と机を置き、夫婦で寝泊まりする。電気は復旧しておらず、夜は懐中電灯の明かりが頼りだ。「避難所は他人のいびきや足音で寝つけない。あそこにはもう戻りたくない」
ただ、2次避難にも抵抗があるという。「避難所で仲が深まった近所のみんなを残し、自分たちだけ遠くに避難するのは申し訳ない」と男性は話す。
断水による衛生状況の悪化や寒さにより、避難所での災害関連死を防ごうと、県などは2次避難の受け入れ先として県内外に1061施設3万518人分を確保している。しかし、応じた人は22日時点で3193人(医師らが常駐する1・5次避難所含む)。避難者全体の2割にすぎない。
避難所から自宅などに移る人が増えるにつれて、行政の支援情報が行き渡らない問題も生じている。
珠洲市の女性(31)は夫、子ども3人と自宅で暮らす。子どもが泣くと迷惑になると考え、一時身を寄せた避難所から戻った。「どこの避難所に何の支援物資があるか分からず、いつでも探し回っている。炊き出しの情報もない」。女性は嘆く。
輪島市は自宅避難者向けにも食料を配布している。しかし、市内の自宅にとどまる男性(49)にその情報は届かず、「毎日注意して調べていたのに気づかなかった」と肩を落とす。同市の担当者は「支援の情報は、市のホームページや公式LINEで発信しているので確かめてほしい」と話している。