被災地の「復興より移住を」 ネットで物議 米山隆一氏の真意は?

能登半島地震の発生から1週間後の8日、前新潟県知事の米山隆一衆院議員(立憲民主党)が、X(ツイッター)に投稿した。「人口が減り、地震前から維持が困難になっていた集落では、復興ではなく移住を選択する事をきちんと組織的に行うべきだ」。この発言を巡り、「過疎化した地域を見捨てるのか」「現実的な提案だ」など、ネット上で賛否が巻き起こった。発言の真意を聞いた。【聞き手・内田帆ノ佳】
――米山さんは8日、X(ツイッター)に「非常に言いづらい事ですが」と前置きした上で「復興ではなく移住を選択する事をきちんと組織的に行うべきだ」と投稿しました。その真意は。
◆地方の人口はこれからわずか25年ほどで、現在の7割になる。石川県珠洲市や輪島市など能登半島はほとんどが、国が市町村全域を過疎地域とみなす「全部過疎」にあたる。人口の5割以上が65歳以上の限界集落も多い。
そもそも地震後に他の地域に身を寄せ、元の土地に戻らない人もいるだろうし、仮に全員帰っても、10年後には地域を離れて介護施設に入居する人も出てくるだろう。お金をかけて水道や道路などのインフラを復旧しても、人がいなくなれば閉じる必要があり費用もかかる。地震が起こり、(インフラを)造り替えなければいけないこのタイミングでどうするのか考えるべきだと思った。
冷たく聞こえるかもしれないが、本人や地域のためにも、合理的に考えなければならないのではないか。被災地を文字通り元に戻すことに、必要以上にこだわるべきではない。
――なぜ移住が必要なのか。
◆「移住」という言葉が強い印象を与えたかもしれないが、移住先は遠くても同じ市内の市街地などだ。私の出身地の新潟県魚沼市も市の人口は減っているが、市街地には山間部から若い世帯が移り住み人口は増えている。市街地ならスーパーや病院も近いし除雪もしなくていい。実際に市街地に移り住んだ人からは、「一度移ったら戻れない」との声も聞く。「生まれ育った所にいたい」という気持ちは強いかもしれないが、ほかの場所に住んだことがないからそう思っているだけ、という理由も大きいと思う。
――「過疎化する地域を見捨てるのか」などの意見もある。
◆地震で壊滅的になった地域を元の状態に戻すのは、そもそも現実的ではない。復興は上下水道などのインフラ復旧を含め、各地の拠点になる中心地から始まる。先にインフラが完備される市街地で定住を含めた支援をした方が、本人や市全体にとってもいい。
集落に戻る選択肢も残しつつ、仮設住宅の提供だけではなく、市街地の賃貸住宅に住めるようにしたり、新築住宅への補助を出したりなど選択肢を提示していけばいい。仮設住宅の設置と撤去で計600万円はかかる。時間的問題もあり、さまざまな調整が必要だとは思うが、その予算で最初から市街地に災害公営住宅をつくり、一斉に入居してもらうことも考えてよいのではないか。
被災地で上下水道の復旧が大変な地域は、実は水道管が細い。人が少ない所には細い水道管が引かれ、(衝撃が加わると)簡単に壊れるから断水する。都会の水道管は水の使用量が多いので水道管は太く造られていて壊れづらい。人口が少ない地域で復旧する場合、災害に弱いインフラをまた造ることになる。限界集落ではライフラインが元に戻るのに場合によっては1年以上かかるかもしれない。復旧はそんなに簡単ではない。
――2004年の中越地震では、旧山古志村(現長岡市)は集落に戻る道を選び、山間部の山あいの小千谷市十二平地区の住民は集団移転の道を選びました。
◆旧山古志村は「絶対に村に戻る」と、多額のリソースをつぎ込んだ。当時人口は2000人ほどだったが、中越地震の復旧・復興費用約1300億円のうち約1000億円を旧山古志村の土木事業などに充てたとされている。1人あたり5000万円の土木費だ。今では人口は750人ほどに減ったが、棚田やニシキゴイなど観光資源もあり地域コミュニティーは維持されている。ただこれは後知恵だが(復興する際に)700人分のインフラにしておけば良かったとも考えられる。一方、集団移転した小千谷市の住民からは、移転に対する不満は聞かれない。
――今回の投稿は、被災地に行方不明者が多数いる中での発言で賛否がありました。
◆後で振り返ったら、適切なタイミングだったと思う。あの時期に言い出さないで復興が本格的に始まってしまったら後戻りできなかったと。今は応急処置の段階だから今後については保留状態。考える余地がある。行政のトップは現状を見つつ、(被災者の)感情にも配慮し、長期的に町や日本全体の存続を考えなければいけない。問題提起する時期として、ここなら被災者がショックを受けず、手遅れにもならない、誰からも異論の出ないタイミングなんてない。
日本の財政余力は落ちてきている。能登半島地震の復興資金はほぼ全額国債で調達することになり、今後の日本財政への影響は無視できない。地震で財政が悪化し、そのまま没落した国は歴史上複数ある。11年の東日本大震災の復興特別所得税もまだ払い終わっておらず、償還するための税金を今も国民が払い続けているのが現状だ。
今回の投稿への反響は大きかった。多くの人が人口減少や日本の国力低下を実感し、今まで通りにはいかないと考え、危機感を持ち始めているからだという面もあると思う。

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