各地で人的被害を出したクマが、捕獲のしやすい「指定管理鳥獣」に指定される方向が決まった。クマは全国的に生息域が拡大し、市街地への進出、農作物の害が問題となっていた。環境省の専門家会合では、クマの保全にも配慮し人とクマの棲み分けを打ち出しており、今後はこうした姿勢の情報発信や、クマの生態を観察する人材の育成・確保などが必要な取り組みとなる。
個体数増に危機感
環境省によると、クマの生息域は四国・九州を除き、全国的に拡大傾向。特に北海道のヒグマは平成15年度からの30年度までの間、分布域は1・3倍に拡大、令和2年度の推定個体数は1万1700頭となった。
北海道では、冬眠から覚めた「春熊」の駆除の廃止したことに加え、林業従事者や狩猟者の減少で森林内での活動人口が減り、人への警戒心が薄れたことがクマ被害拡大の要因となった。
また、農業の機械化、営農規模の拡大で農地に人が減る一方、電気柵などの防除が行き届かないなか、飼料用作物の「デントコーン」を中心に食害が広がる。ロシアのウクライナ侵略に伴う飼料価格の高騰を受け、国内生産が進んだことも拍車をかけた。
8日に環境省で開かれた専門家会合「クマ類保護及び管理に関する検討会」では、委員から「人身被害が広がっており危機感がある」「従来の対策では不十分」との声があがった。
広がる誤解
「『捕獲』と言うことでハレーションが起きやすい。絶滅させようとしていないが、なかなか伝わっていない」という発言も。
昨年秋に全国に被害が広がって以降も、環境省にはクマの指定に対する反対の声が寄せられていた。すでに指定管理鳥獣に指定されているニホンジカとイノシシは、平成25年に令和5年までの10年間で半減させる計画が立てられていることで、クマも同様の扱いになると混同したとみられる。
今回の方針の目的が、クマとの軋轢の低減のため、人とクマのすみ分けを進めることを明示し、生息状況などのモニタリング(観察)に重点を置く。委員からは「適切な情報発信が必要」などの声があがった。
また、モニタリングを行う人材の育成・確保も必要だ。委員の1人は「かなりの労力を割く必要がある。実施しようとするための態勢を担保しなくてはいけない」と指摘。交付金が人材育成などにも活用できるよう柔軟な運用を求めた。(織田淳嗣)