崩れ落ちる家屋、避難する住民、津波が押し寄せる様子――。能登半島地震の被害を克明に記録した映像が、珠洲市で特別養護老人ホームなどを運営する社会福祉法人「長寿会」の送迎車のドライブレコーダーに残っていた。同法人は「映像を今後の防災対策のための教訓としてもらいたい」と呼び掛ける。
職員1人と利用者の男女6人が乗った送迎車は元日の午後4時10分ごろ、珠洲市宝立町でデイサービス利用者を自宅に送るために施設を出て、間もなく激しい揺れに襲われた。揺れは50秒あまり続き利用者が「ぎゃあー」と悲鳴を上げる中、すぐそばの家屋には亀裂が広がり次々と倒壊して土煙が上がった。
直後には住民らが、長寿会のある高台を目指して避難を開始。送迎車は倒壊家屋や損壊した道路に挟まれて動かせず、大津波警報の放送が流れる中で地域住民や家族が利用者を支え、足腰の弱い利用者は背負って逃げた。揺れが収まってから約35分後の午後4時47分ごろには、衝撃を感知して再開された録画に、津波の濁流が家屋の残骸や車両を押し流す様子が残っていた。
同法人の高堂泰孝事務局次長(49)によると利用者は全員無事に避難。「送迎の時間が少し違えば倒壊に巻き込まれていたかもしれず、紙一重だった。地域の方が避難を手助けしてくれたことに感謝したい」と振り返った。【藤河匠】