和歌山県庁地下1階にある食堂「信濃屋」が3月末で、42年の営業を終える。こだわりのうどんやそば、丼を安価で提供し、忙しい職員らに愛されてきた。閉店公表後、「食べ納め」の常連客が連日詰めかけている。
「親子丼とミニそば」「うどん、ネギ多めで」
19日正午、昼休みを知らせるチャイムが鳴ると、約30席がすぐに満席になった。だしの香りが漂う店内には、注文の声が響いていた。
長年にわたって週2、3回通ってきたという男性(63)は「季節を問わず、カレーそばをよく頼んだ。おいしかったので、閉店はとても残念」と話す。
県管財課によると、信濃屋は1982年に県庁で営業を開始。2010年に現在の県庁本館地下1階に移転した。店主の見沢篤規さん(51)が母親の佐知子さん(77)らと家族で営んでいる。
「『安くてたくさん』を第一に、毎日来てくれる客が飽きないようにしたい」と取り組んできた。客の要望にはできるだけ応えてきたという。客から「カレーうどんの和風だしをご飯にかけてほしい」と頼まれて生まれた「カレー丼」は、今では人気メニューとなった。
常連客は多いものの、昼休みの1時間を除くと、客が多いとは言えない状態だった。はいからうどん400円、きつねうどん480円、カレー丼640円など、低価格で頑張ってきたが、物価高騰の影響で採算が合わなくなった。営業を始めた時から店に立ってきた佐知子さんも高齢となり、県との契約が満了する3月末で閉店することを決めた。
閉店を発表すると、多くの客が訪れ、昼休みには地下に下りる階段に長い列ができる。元職員が久しぶりに訪ねることもあるという。篤規さんは「寂しいが、時代が変化していく中で今が決断の時期だと思う」という。佐知子さんは「お客さんのおかげで続けられた。感謝の気持ちでいっぱい」と話している。
29日までの平日(午前11時~午後3時)に営業する予定だが、品切れで提供できる商品が限られる可能性があるという。