昨年1月に大阪湾に迷い込んだクジラの死骸処理費が大阪市の試算の2倍以上に膨らんだ問題で、市大阪港湾局は23日の市議会で、同局で契約を担当する経営改革課長(当時)が、クジラの処理後に委託業者と会食していたことを明らかにした。市の内規に抵触する行為で、一連の対応について局内で検証するという。
疑義招き局長「反省」
クジラは「淀ちゃん」と呼ばれ、昨年1月13日、淀川河口付近で死んでいるのが確認された。同局は、市内の海運会社に死骸の海洋投棄を依頼。死骸は6日後、紀伊水道沖に沈められた。同局は昨年3月初めに処理費を3774万円と試算していたが、交渉を経て引き上げ、3月31日に8019万円で随意契約を結んだ。
同局はこの日の市議会建設港湾委員会で、経営改革課長は、クジラの処理後に自ら飲料やつまみを購入して同社を訪ね、飲食したと説明。市の公正契約職務執行マニュアルでは、契約に携わる職員は、癒着が疑われないよう業者との接待や飲食が禁止されている。同局によると、課長の行為はこの規定に抵触するという。
同局はまた、クジラの処理を担当していた部署以外の職員が、同社に市の試算額を伝える不適切な行為があったことも明らかにした。
当時の経営改革課長を巡っては、昨年3月27日に行われた同社との交渉に同席し、金額の引き上げを交渉担当の海務課長(当時)に強く迫っていたことが判明している。経営改革課長は引き上げに慎重な海務課長に対し「お前ええ加減にせえよ」などと発言していた。
同局の丸山順也局長は市議会で、「経営改革課長に主体的に交渉を進めるよう指示したことはない」と説明し、金額は合理的な根拠をもって算出したと主張した。一方で、経営改革課長が交渉に同席し、金額の引き上げを求めた行為は「本来の役割を越えており、適切であったとは言えない」と述べた。
同社との契約を巡っては、市監査委員が今年4月、作業の履行を十分に確認しないまま船の清掃費を計上するなど「多くの疑義がある」と指摘していた。市契約管財局が適正だったかを調べている。
丸山局長は「報告や連絡、相談が徹底されず、指示内容や対応方針の共有が不十分になったことなど、組織全体としてのガバナンス(内部統制)の不足が様々な疑義を指摘されることにつながった。大いに反省している」と強調。「今回の事案全般について局を挙げて改めて検証し、ガバナンスの強化など強い決意で取り組む」と述べた。
大阪港湾局では、昨年1月下旬に人事・港湾再編担当課長(当時)が同社を訪ね、日本酒を贈っていたことも明らかになっている。
随意契約の総点検 市長表明
大阪市の横山英幸市長は23日の市議会建設港湾委員会で、クジラの処理費を巡る問題を受け、市発注の随意契約が適正かを総点検する方針を明らかにした。
クジラの処理は、緊急性や特殊性があったとして、一般競争入札ではなく、1社のみの見積もりによる「特名随意契約」で行われた。この日の委員会で、公明党の市議が「市民は、競争性や金額の決定で不透明になりかねない随意契約自体への不信感を抱いている」と述べ、随意契約の総点検を求めたのに対し、横山氏は「他の随意契約でも不適正な事象が発生していないかを調査することは必要だ」と応じた。今後、契約業務を所管する市契約管財局で、調査内容を詰めるという。
この問題を巡っては、市大阪港湾局は、委託業者との金額の交渉が難航する中、顧問弁護士から当時の松井一郎市長らに早急に相談するよう助言を受けながら、報告していなかったことも判明している。松井氏は23日、「僕に何の報告相談もなかったのは、大変遺憾。問題点は港湾局の体質(や)内部統制」と自身のX(旧ツイッター)に投稿した。
大阪市のクジラの死骸処理費を巡る問題で、市民グループ「見張り番」は23日、横山英幸市長を相手取り、契約の締結に関わった市職員3人と委託業者に8019万円の損害賠償を請求するよう求める住民訴訟を大阪地裁に起こした。
訴状などによると、市職員は、市大阪港湾局の丸山順也局長と、クジラの処理を担当した海務課長(当時)、契約担当だった経営改革課長(同)。原告側は、市が契約の際に他の業者から見積もりを取らなかったことなどから処理費が高額になったとし、「違法な随意契約で、市に損害を与えた」と主張している。
横山市長は記者団に対し、「適正に事務が行われたのか、調査を進めている」と述べた。