警視庁が19年弱追い続けた指名手配犯は、もうこの世に存在していなかった。2005年に東京都三鷹市で男性が殺害された事件で、4日、警視庁捜査一課は、事件翌年までに死亡していたと判明した上地恵栄(うえちけいえい)容疑者(当時49)を容疑者死亡のまま、殺人容疑で書類送検した。
ギョロリとしたドングリまなこに太く短い眉、パンチパーマのあばた顔を街中のポスターで目にした人は少なくないだろう。「重要指名手配犯」として長年、警視庁が行方を捜し求めていたのが上地容疑者だ。
「これまでに捜査本部に寄せられた情報は1600件以上…」
事件が発覚したのは05年11月25日。三鷹市のアパートで居酒屋の副店長、永野和男さん(当時53)が殺害されているのが見つかり、永野さんと一緒にいたとみられた上地容疑者は翌月から殺人容疑で指名手配された。
「特徴的な見た目もあり、これまでに捜査本部に寄せられた情報は1600件以上。かなり早い段階で容疑者を特定した捜査一課でしたが、その後、上地容疑者の行方は杳として知れず、捜査一課はなかなか上地容疑者にたどり着けませんでした」(警視庁担当記者)
それもそのはず。上地容疑者はとうに冥界に旅立っていた。今年に入り、事件翌年の06年3月に石川県加賀市の山中で見つかっていたミイラ化した首吊り遺体が、実は上地容疑者だったと判明したのだ。
「身元確認に一番有効なのは指紋とDNA型です。遺体からは指紋が採取されましたが、ミイラ化していたため上地容疑者の指紋とは一致せず。一方のDNA型は上地容疑者のものを捜査一課が最近まで採取できていなかったため、照合されていませんでした」(同前)
捜査幹部が「上地は死んでいるんじゃないか」と。
転機は今年。上地容疑者がすでに死亡している線も含めて洗い出す再捜査が本格化したという。
「寄せられる情報が減ってきたこともあり、捜査幹部が『上地は死んでいるんじゃないか』と言い始めた。そこで三鷹市の事件現場にあった上地容疑者の下着の血痕を精査して上地容疑者のものと特定し、DNA型を抽出。あらためて身元不明遺体のDNA型と照合したところ、加賀市の遺体と一致した」(捜査関係者)
殺害された永野さんの妹は捜査一課の連絡を受け、「これで事件は終わりですね。ありがとうございました」と話した、と報道では美談に仕立てられたが、
「事件解決は解決だが、もっと前からDNA型の照会ができなかったのか。『今さら死んでいたとなっては士気が下がる』といって、容疑者が死んだ線を洗わない遠慮が過去の幹部になかったとは言えないのでは」
と、警視庁関係者から声が上がるのも無理からぬところだろう。上地容疑者は泉下で捜査の行方をどう見ていたのだろうか。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年6月20日号)