日向灘で8日発生した地震を受け南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」が発表されました。
巨大地震が起きる可能性が平常時より高まっていると評価されたものですが、事前の避難が呼びかけられるわけではありません。
身を守るために、私たちは何をすればいいのか。臨時情報への対応を研究している専門家に聞きました。
南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」とは
気象庁は8日、初めて南海トラフ地震臨時情報の「巨大地震注意」を発表し、「南海トラフ地震の想定震源域では、新たな大規模地震の発生の可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると考えられる」と呼びかけました。
南海トラフの想定震源域で巨大地震が発生する確率が平常時に比べて高まっていると考えられることを示すものです。
南海トラフ巨大地震とは歴史上100年から150年の間隔で起きている大規模な地震で、前回の発生から80年近くが経過。
国の被害想定 最悪の場合、死者は32万人超
国の被害想定では、最悪の場合死者32万3000人、倒壊・焼失する家屋238万6000棟。
経済的な損失はおよそ215兆円にのぼると試算されています。
「長期にわたって警戒を」
防災心理学が専門の九州大学・杉山高志准教授は「南海トラフ地震臨時情報」への対応を研究しています。
国の被害想定で最も高い最大34.4メートルの津波が押し寄せると想定されている高知県黒潮町で住民の避難支援などに当たるなど各地の自治体と連携して事前の備えに取り組んでいます。
九州大学・杉山高志 准教授(防災心理学) 「気象情報における警報と同じようなものというふうに受け取られがちなんですけれども、実はそうではありません。この臨時情報は例えば1週間程度警戒を続けてくださいといった形で、かなり長期間にわたって警戒すべきであるということを伝える情報です」
南海トラフ地震臨時情報が出た後、マグニチュード8以上の地震が発生したと評価された場合は「巨大地震警戒」。
マグニチュード7以上の地震が発生した場合や通常とは異なるプレートの動きが観測された場合は、「巨大地震注意」が発表されます。
今回出た「巨大地震注意」とはどのような情報なのでしょうか。
「危機感や実感を持ちにくいが発生の可能性は高くなった」
九州大学・杉山高志 准教授(防災心理学) 「臨時情報巨大地震注意の場合には巨大地震警戒のときに比べて目立った被害が起きていない可能性が極めて高いです。 多くの皆さんが危機感や、あるいはその情報が出たという実感を持ちにくい状況が続きます。しかしながら、平時に比べて発生する可能性が高くなったということは紛れもない事実ですので、それに向けた事前の対応を十分に備えていく必要があります」
東日本大震災の2日前にマグニチュード7クラスの地震が発生していた事例もありますが、巨大地震が1週間以内に発生する頻度は、「巨大地震注意」で数百回に1回、「巨大地震警戒」で十数回に1回とされます。
杉山准教授は「地震が起きない可能性の方が高い」としたうえで、冷静な対応を呼びかけます。
九州大学・杉山高志 准教授(防災心理学) 「臨時情報は普段の生活を見直すきっかけとして捉えるのが正しい向き合い方ではないかと思います。すなわち臨時情報自体はここは十分注意すべきことですが、予知情報ではありません。あくまで臨時情報は可能性が高くなったということを示す参考の情報です。なので臨時情報をきっかけにして普段の生活を見直すことはもちろん重要ですが、それにばかり過信してパニック状態になることは本来的な趣旨では異なるものになります」
人類が持っている重要な武器
「参考にすべきではあるけれど、予知情報ではない」という一見、分かりにくい南海トラフ地震臨時情報。 杉山准教授は、「ひとつの武器」という視点で捉えてほしい、話します。
九州大学・杉山高志 准教授(防災心理学) 「一番大事なところは捉えようがない地震の発生に対して何らかの武器を持つというそういう視点が大きく作用しています。 今現在地震が発生することを予知することは不可能だというふうに言われています。 しかしながら、全く手立てがないかというとそうではありません。臨時情報も実は私達人類が持っている大事な武器のひとつなのです。」
水や食料の備蓄、普段の備え確認を
この武器をもって、基本に立ち返ることが大切だと指摘しました。
九州大学・杉山高志 准教授(防災心理学) 「一番大事なことは普段から行っている基本にもう一度立ち返るということだと思います。すなわち、何か新しいことを始める必要はありません。普段から行っている家具の固定でありますとか、食料・水の備蓄でありますとか、あるいは家族等の安否確認方法の改めて再認識でありますとかそういったことを十分に行うということが大事だと思います。 寝ている寝室にある家具の固定を十分にしているか、避難する経路に倒れてくる家具がないだろうか、もしくは古いおうちに住まれている方は自分が住んでいるおうちが、旧耐震なのか新耐震なのかということを改めて見直す、だとか。 さらに沿岸域に住んでいる方に関しては自分が住んでいる方ところが津波浸水域なのか否か、沿岸域でなかったとしても山がちなところ、土砂災害警戒区域に住んでいる方は地震による揺れによって山が崩れてこないかどうかということを見直す必要があるというふうに思います」
「1週間」に科学的根拠はない
杉山准教授は、「1週間」という目安についても、注意が必要だと話します。
九州大学・杉山高志 准教授(防災心理学) 「おおむね国が出した一つの基準として、臨時情報(巨大地震警戒が出てからおよそ1週間程度その警戒情報が続くというふうに考えられています。 ただしここで注意すべきなのが、この1週間というものにいわゆる科学的な根拠があるわけではないということです。 すなわち地震発生後から7日目と8日目の間に発生確率として大きな違いがあるかというと、決してそうではありません。 あくまで社会が受忍できる、社会が我慢できる限度として1週間程度の目安を作ったということに過ぎません。 すなわち、臨時情報が解除されたとしても、その後に全く地震が起きなくなったということではない。引き続き注意をする必要があります。」
どの地域も他人事ではない
太平洋沿岸地域以外に住む人にとっても他人事ではありません。
例えば、九州北部の福岡県では、南海トラフ巨大地震が発生すると、周防灘沿岸に最大4メートルの津波が押し寄せることが予想されています。
九州大学・杉山高志 准教授(防災心理学) 「被害者にならないためのその準備も大事ですし、また自分たちが支援者として活躍していくっていう心構えにおいてもとても大切です。だからこそ福岡県に住む人は、南海トラフ地震から縁遠い存在もしくは他人ごとの存在というわけでは決してないということを常に考えていく必要があると言えます」
設けられて5年で初めて出た南海トラフ地震臨時情報。
何より重要なのは日ごろからの備えになります。