お盆休みで多くの国会議員が地元に帰り、静かだった永田町で突如、総裁選への不出馬を表明した岸田文雄首相。これにより自民党内では小泉進次郎元環境相ら40代の出馬に期待する声もあがる。しかし、進次郎氏は重要閣僚や党幹部の経験がなく、永田町からは「どうせあの人の傀儡政権になるだけでは」と冷ややかな声も。はたして自民党は生まれ変わった姿を見せることができるのか。
〈画像〉菅前首相以外にも進次郎を後押しするあの”長老”…
首相の退陣で一転、沈黙を貫く進次郎氏
首相の突然の退陣表明を受け、8月14、15日には総裁選の出馬に意欲を燃やす議員からの発言が相次いだ。石破茂元幹事長は「総裁選に推してやろうという方々が20人おられれば、ぜひとも出馬したい」と発言し、河野太郎デジタル相は「いつか経験を生かせる日が来れば」と語った。
こうした中で沈黙を貫いているのが小泉進次郎氏だ。
「進次郎氏は首相の退陣表明翌日の15日朝、靖国神社を参拝しましたが、記者団の問いかけには答えず、硬い表情で立ち去りました。同じく靖国神社で『今は政治家としての力を高めることに尽きる』とコメントした小林鷹之前経済安保相とは異なる対応でした」(全国紙政治部記者)
だが、進次郎氏は首相の退陣表明前、総裁選出馬について「さまざまな決断をいちいち親父に仰ぐだろうか。歩みを進めるも引くも自分で決めるのは当たり前のこと」と発言するなど、発信を強めていた。現在は首相の不出馬によってガラリと変わった総裁選の情勢を見極めている最中とみられる。
「海軍カレー」で忠誠を誓ってきたあの人が、強力な後ろ盾に?
進次郎氏が総裁選を見据えるうえで強力な味方となっているのが、同じ神奈川県を地盤とする菅義偉前首相だ。菅氏は石破氏や河野氏への支持も視野に入れてきたものの、本命は進次郎氏であるとの見方が永田町では根強い。
「国民人気の高い石破氏ですが、永田町では人気がなく、菅氏ら大物の支援を取り付けられなければ勝ち目はありません。また、菅氏が前回推した河野氏も麻生派から退会せず、『脱派閥』が持論の菅氏は快く思っていません」(全国紙政治部記者)
菅氏はこれまでも進次郎氏について「気配りができる」と評価。「周りの議員を信用せず、めったに携帯の番号すら教えない」とされる進次郎氏だが、菅氏に対しては絶大な信頼を寄せ、菅氏が官房長官や首相だった際には官邸に足しげく通った。菅氏の誕生日には進次郎氏の地元・横須賀の「海軍カレー」を差し入れるなど、忠誠を誓ってきた。
そんな進次郎氏は滝川クリステル氏との結婚の際も官邸を訪れ、いち早く菅氏に報告。官邸のロビーで「結婚会見」まで行なったが、これをよく思わなかったのが、進次郎氏と距離のあった、安倍晋三首相(当時)だった。
「それでも安倍氏は、人気のある進次郎氏を閣内に取り込みました。内閣支持率は上がりますし、原発の処理水問題など難しい立場の環境相をやらせてみて、進次郎氏が自爆すればそれでもよいと考えたのです」(安倍氏周辺)
その安倍氏の目論見が当たったのか、「気候変動問題への取り組みは、セクシーでもあるべきだ」など、大臣としての資質が問われる発言を繰り返し、失笑を買った進次郎氏。だが、そんな進次郎氏を引き続き環境相として続投させたのが、安倍政権を引き継いだ菅氏だった。しかし、菅政権は約1年で終わってしまった。直後の総裁選で菅氏が「小石河連合」の一員として推した河野氏が敗れてからは、小泉氏は重要閣僚や党幹部の経験を積めぬまま、今に至る。
もう一人の大物も後押しに
こうした経験不足がネックとなっている進次郎氏が首相に就任したらどうなるのか。ささやかれるのが「菅傀儡政権」だ。
「進次郎氏は『セクシー』発言からもわかるように、政治家としての経験や能力は決して優れているわけではありません。ただ、そんな進次郎氏をバックアップしようと、すでに菅氏が首相時代に秘書官を務めた官僚たちが『チーム進次郎』を結成し、公約づくりに精を出していると言われています。
菅氏は、進次郎氏に『菅色』がつくことを懸念して表立っては動いていませんが、進次郎氏が首相に就任すれば、菅氏が後ろ盾になるでしょう。これまでも進次郎氏は、菅氏が提唱してきたライドシェアを推進するなど、菅氏の政策を前に進めてきました」(全国紙政治部記者)
さらにここに来て、もう一人の大物も進次郎氏に接近しつつある。
「森喜朗元首相です。森氏が進次郎氏に出馬を勧めているという話もあり、安倍派に絶大な影響力をもつ森氏の動きに注目が集まります」(前同)
もともと進次郎氏の父、純一郎氏が現在の安倍派につながる森派に所属していたこともあり、純一郎氏でもぶっ壊すことができなかった派閥が、進次郎氏を押し上げるかもしれないというのだ。
対する立憲は「党内のムードは枝野氏に」
自民が「看板の付け替え作業」にいそしむ一方、元気がないのが立憲民主党だ。立憲も今年9月に代表選を予定しているが、現在の有力候補は、泉健太代表と枝野幸男前代表だ。とくに、枝野氏はお盆前に立候補を表明し、21日には記者会見を開く予定だ。枝野氏が所属するリベラル系グループ「サンクチュアリ」も19日に総会の開催を予定するなど、枝野氏サイドは鼻息が荒い。
立憲議員も「党内のムードは枝野氏に傾きつつある」と明かすが、「進次郎氏や小林氏ら40代が出てくる総裁選に対して、こちらは前代表の返り咲きでは新鮮味に欠ける。枝野氏では、都知事選で石丸伸二氏に投票したような、既存の政治に嫌気がさしている層を取り込めない。そうした有権者は進次郎首相が誕生したら、自民に投票するのでは」と、進次郎首相誕生の可能性を前に、危機感を抱く。
進次郎氏は、圧倒的な国民人気を誇った父と同様、来年秋までに行なわれる総選挙で、政権奪還以来最大の危機とも言われる自民党を救うことができるのか…?
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班