台風10号は28日、中心気圧が935ヘクトパスカルまで急激に発達した。今後も勢力を維持したまま九州に近づけば、過去に大きな被害をもたらした台風にも匹敵する可能性も出てきた。
気象庁によると、歴代台風の中で上陸時の中心気圧が最も低かったのは1961年9月の第2室戸台風で、上陸時の中心気圧は925ヘクトパスカル。暴風や高潮などで死者・行方不明者202人を出した。中心気圧でみると、統計が始まった51年以降、940ヘクトパスカル以下で上陸したのは、11台風しかない。
「日本近海での気圧で見ると過去最大級の台風だ」。台風のメカニズムに詳しい京都大防災研究所の伊藤耕介准教授(気象学)は台風10号について、こう強調する。発達した理由について、台風10号が通過した海域の海面水温が平年よりも高かったことを挙げる。
台風は温かい海面からの水蒸気がエネルギー源となる。今回は進路が西寄りとなり、海面水温がより高い海域を通過することとなって予想よりも勢力が発達。台風の構造を壊す偏西風が通常より北を通っており、直接的な影響を受けなかったことも、弱体化が進まない理由の一つとみる。
さらに伊藤准教授が着目するのは、移動速度の遅さだ。台風は大規模な大気の流れで移動するが、台風10号は偏西風帯や太平洋高気圧から離れているため移動速度が非常に遅く、影響が長く続く可能性がある。
こうした台風は過去にも例がある。広い範囲で大雨が続き、紀伊半島を中心に土砂災害と河川の氾濫などで100人近くが犠牲となった2011年の台風12号だ。伊藤准教授は「台風の東側には海上から湿った南風が吹く影響で、本州や四国の太平洋側ではすでに強い雨が降っている。多いところでは1年間の総雨量の半分から数分の1が2、3日の間に降る恐れがあり、災害をもたらす危険性が高い」と指摘する。
台風の備えは?
どう備えればいいのか。京都大防災研究所の牧紀男教授(防災学)は「普段はあまり雨量が多くなかった地域でも大雨が続き、街の排水能力が低いところでは災害が起こりやすくなる。普段とは違う警戒をしてほしい」と強調する。
台風から離れた場所でも大雨が降る可能性があることから「台風が上陸する地域だけでなく自分が住む地域の状況を気にかけてほしい」と呼びかける。今回は予報円が大きく進路予測も難しいため、不要な外出を控えるなどの予定の変更をすることも重要だという。
台風により停電が長期化することも想定される。19年に関東を襲った台風15号では、千葉県で鉄塔が倒れるなどして2週間以上も停電が続いた地域も出た。携帯電話を充電したり、備蓄を見直したりすることも重要といい、「いつ発生するか分からない地震と違い、台風は来ることが確実な災害だ。先手の対策を意識して備えることが大切だ」と訴える。【森永亨、田崎春菜、山崎あずさ】