戸建て住宅の居住者に、補修工事が必要と偽り、工事費用をだまし取る「点検商法」の被害が後を絶たない。今年4~7月、国民生活センターに寄せられた相談は統計のある過去10年間で最多だった昨年度を上回る勢いだ。警視庁が摘発した業者の実態を調べたところ、社名や社員を入れ替えながら犯行を繰り返していることが判明。警察当局は、交流サイト(SNS)などで結びつき、離合集散を繰り返しながら活動する「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)が犯行に関与しているとみて摘発を強化している。
不安あおり代金詐取
「基礎にヒビがあります。今すぐ補強工事しないと家が傾きます」
「床下の湿気がすごく、放置すると木が腐って崩れます」
7月に逮捕されたリフォーム業者は戸建て住宅を狙い、こうした言葉で不安をあおり、床下工事をして代金をだまし取っていた。警視庁暴力団対策課が建築士に鑑定を依頼した結果、不必要な工事だったという。
この業者は「三洋」「三農」などと社名を変えながら、所在地も神奈川、東京と移動。「床下にシロアリがいる」などとを言い、害獣駆除を請け負うケースもあった。
暴対課が消費生活センターに照会したところ、同じ業者とみられる苦情や相談が多数寄せられていることが分かり、本格的な捜査につながった。神奈川県や埼玉県を中心に、首都圏を舞台として被害相談は確認できただけで約50件、総額は約1500万円以上に上る。
同課は今年1月には「大和住建」を名乗る神奈川県のリフォーム業者を摘発。不必要な屋根工事を行う手口で、令和4年春以降、関東圏で約8億円の利益を上げるという「荒稼ぎ」をしていた。
関係者の中には、別の特殊詐欺事件に関与している人物も含まれていた。暴対課では、こうした点検商法業者が、摘発のたびに社名や所在地を変える▽SNS(交流サイト)を使って社員を募集する▽社員を入れ替えながら犯行を繰り返す-などの特徴を持つことから、トクリュウによる組織犯罪と位置付け、取り締まりを強化している。
被害は60歳以上8割
国民生活センターによると、屋根や床下のほか、給湯器など、さまざまな対象に関する点検商法が確認されている。
点検商法全体に関する相談は、平成30年度は5690件だったが、令和5年度には1万2527件と倍増。さらに、今年度は4~7月だけで4786件と、5年度の同時期の2814件を上回るペースで推移している。5年度は統計のある平成26年度以降、過去最多で、今年度はそれを超える可能性がある。
このうち屋根の点検商法に関する相談が平成30年度の924件から令和5年度には4035件と4倍以上に。給湯器に関する相談も平成30年度の206件から令和5年度には1989件と増えている。
点検商法の被害者は8割超が60歳以上。センターでは「特に高齢者が狙われやすい」(担当者)として、ホームページで典型的な事例を紹介するなどして注意を呼び掛けている。担当者は「直接対面してしまうと、巧みなトークに乗せられてしまう。インターホンで対応し『無料点検』と聞いたら、断るようにしてほしい」としている。(外崎晃彦)