自民党総裁選(12日告示、27日投開票)の争点として、「金融所得課税」が急浮上した。出馬を表明した石破茂元幹事長が「(課税強化を)実行したい」と述べたことに対し、立候補を予定している有力政治家が次々と反対の考えを示し、「袋だたき」のような状況になっているのだ。岸田文雄政権が「貯蓄から投資へ」と呼びかけるなか、税率が一律20%の金融所得課税の強化を訴える石破氏の発言は「増税路線」の発信と映る。中間層への影響も大きいため、識者は今後も発言が尾を引く可能性を指摘する。
「自民党として新NISA(少額投資非課税制度)の拡充などを進め、多くの中間層が金融所得による所得増の恩恵を得られるよう取り組みを進めてきました。ここで金融所得課税を強化することは、これまでの取り組みに逆行する上、物価高に苦労する中間層に対する増税となりかねず賛同しません」
すでに総裁選への立候補を表明した小林鷹之前経済安保相は3日、自身のXにこう投稿した。
小泉進次郎元環境相も3日、東京都内で記者団に「貯蓄から投資へと歯車が動き出した。水を差すような議論をするタイミングではない」と話し、河野太郎デジタル相も「いかに投資を促していくかが大事だ。(課税強化は)少なくとも今ではない」と語った。3日に立候補を表明した林芳正官房長官は記者会見で「貯蓄から投資への流れとどう調和を取っていくかを考えないといけない」と述べ、慎重姿勢を見せた。
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金融所得課税は株式の売却益や預貯金の利子といった金融所得に対する課税で、税率は個人住民税を含めて一律20%となっている。岸田文雄首相は2021年の総裁選で、課税強化に意欲を見せたが、その後「岸田ショック」と揶揄(やゆ)された株価下落を招いて、首相就任後に先送りを表明した。
総裁選候補の反応を受け、石破氏は「水を差すようなことをやろうとは全く思っていない」と釈明した。
石破氏の発言の真意や今後の影響を識者はどうみるか。
上武大学の田中秀臣教授は「金融所得課税は、課税範囲が広く中間所得層にも負担を与えるような内容となっており、石破氏が強化を唱えるのは『財務省的な緊縮財政』『増税路線』に加担しているように見える。各候補の発言は、『反緊縮派』が多いネット利用者にアピールし、石破氏の人気を落としたいという思惑があるのだろう。石破氏の発言を失点とみて一斉に批判が起きているわけで、今後も尾を引く可能性がある」と話した。