ニュース裏表 田中秀臣 総裁選の隠れた争点「緊縮」と「反緊縮」の対立軸 国民は経済政策に強い関心も 報道各社〝お仲間〟官僚に気兼ねか

自民党総裁選は事実上の日本の首相を決める政治的イベントだ。安全保障や政治資金の問題など重大な論点が多い。経済政策では、日本が本当にデフレ経済から脱却できるかどうかその瀬戸際にある。世論調査でも景気、物価、あるいは社会保障のあり方など経済政策に対して、国民は強い関心を寄せている。
テレビや新聞などのマスコミは、相変わらず「財政規律」という名前の緊縮政策が好きだ。そのせいなのか、テレビなどの世論調査では、「緊縮派」の石破茂元自民党幹事長が人気だ。
だが、今回の総裁選の主戦場はむしろネットになっている。出馬予定の各議員もネットの発信に力を入れている。テレビでは「財政規律」に反するような発言が無視されがちだからだ。実際に、自民党ではタブー視されている消費税の減税を、立候補予定者でただ1人打ち出した青山繁晴参院議員がテレビで無視や軽視されている。消費減税を古いマスコミが避けたいからかもしれない。
また、石破氏が「金融所得課税の強化」について発言したことに、ネット世論は猛烈に反発した。石破氏は日銀の利上げにも好意的で、「財政規律」を重視している。そこに金融所得課税強化を持ち出せば、「緊縮、増税好き」(高橋洋一嘉悦大学教授)と思われても仕方がない。
所得は「給与所得」と「金融所得」に分かれている。1億円を超す所得水準になると、所得に占める金融所得の割合が増えていく。給与所得よりも金融所得への税率が低いことで、高所得層ほど優遇されてしまう問題はある。
ところが、岸田文雄政権以降、新NISA(少額投資非課税制度)の利用などにより中間所得層で無課税の人たちが急増している。小林鷹之前経済安保相はXで石破氏の発言を批判し、むしろ中間層の所得拡充をよりいっそう目指すべきだとした。小泉進次郎元環境相らも同様の批判をした。金融所得課税強化は財務省の好む増税だ。石破氏の経済政策の「指南役」が誰なのか透けてみえる。
一方、茂木敏充幹事長は「増税ゼロ」を打ち出し、それを林芳正官房長官が批判した。河野太郎デジタル相は「財政規律」重視で、加藤勝信元官房長官は給付増などを訴えている。高市早苗経済安保相は、近刊の『国力研究』(産経新聞出版)で、積極的な財政・金融の組み合わせを主張した。
現段階で出馬会見を行った、あるいは行う予定の議員をみても、「緊縮」と「反緊縮」が対立軸になっている。だがテレビや新聞の多くはこの対立軸を取りたがらない。国民の興味よりも〝お仲間〟の官僚に気兼ねしているのだろう。 (上武大学教授・田中秀臣)

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