「去年9月の事件直後から、複数の私服警察官が近辺の防犯カメラを調べたり、容疑者を張り込んだりしていたようすがあった。早い段階から、マークしていたんですね」
かつて容疑者一家が住んでいた埼玉県川口市のマンションの近隣住民は、そう証言した。
埼玉県警捜査一課と同武南署は8月21日、事件後に同県草加市に転居していた無職の河野雄大容疑者(24)を傷害致死の疑いで逮捕した。容疑者は昨年9月9日ごろ、川口市のマンションで長男の想蒼(そあ)ちゃん(当時生後1か月)に対してなんらかの暴行を加え、同月19日に搬送先の病院で死亡させたというもの。
「犯行当日、仕事から帰宅した母親が異変に気づいて“子どもの顔が紫色になっている”と119番通報していた」(全国紙社会部記者)
遺体に目立った外傷はなかったものの、脳には損傷があったという。
「死因は蘇生後脳症でした。遺体のようすがおかしいと、病院から児童相談所、児童相談所から警察へと連絡がいき、警察が慎重に捜査していった結果、逮捕に至ったわけです」(同・社会部記者)
河野容疑者は警察の取り調べに対して、
「暴力などふるっていない」
と容疑を否認しているという。生後間もない実子を暴行して死に至らしめた河野容疑者とは、一体どんな人物なのか。
無職だが、白いベンツを乗り回していた容疑者
容疑者が20代の妻、想蒼ちゃんの姉と3人で川口市のマンションに引っ越してきたのは3年ほど前。築20年弱の2階建てで、間取りは2DK、家賃月8万円ほど。
「奥さんは介護士で、しっかりした人。だから、奥さんの名義でこのマンションに入居できたと聞きました。旦那さんは無職でしたが、白いベンツを乗り回していましたね」(同マンションの住民)
一見するとおとなしそうに見える容疑者だが、
「一昨年のハロウィンのとき、仲間5、6人で外で暴れたようで、警察の厄介になったとか。マンションでも夫婦喧嘩が激しくて、警察が駆けつけてきたのが1、2回どころではなかったですよ。どうやら容疑者が酒乱で、それで毎回揉めていたみたい……」(同・住人)
そんな夫婦間のトラブルが続いたため、警察は長女への心理的虐待になっていると、埼玉県南児童相談所(以下、児相)に2年ほど前に通告。児相は長女を両親のもとから引き離した。
「確かに長女は幼いときは見かけたけど、以降はまったく見なかった。母親は自分の実家に預けていると言っていたね」(夫婦の知人)
加えて、児相は川口市子育て相談課(以下、市)にも報告。市は想蒼ちゃんを妊娠していた母親を昨年5月、支援が必要な『特定妊婦』に指定した。
昨年8月、想蒼ちゃんが誕生した直後、市は18日、30日と家庭を訪問。
「母親とは会いましたが、容疑者とは会えなかった。母親によると子育てをしていく上で、一緒に暮らすのは困難だと。だから、容疑者はマンションにはもういない、別居しているというような趣旨のことを語っていました。もちろん、それは鵜呑みにもできないので、こちらなりの裏付けはとったつもりですが……」(市)
「別居なんか、全然していなかった」
しかし、どうやらそれは嘘のようだった。
「別居なんか、全然していなかったね。あの夫婦は最初から最後まで、ずーっと一緒に住んでいたよ。無職で警察沙汰になるような男なのに……理由はわからない」(前出・夫婦の知人)
市は事件が起きる5日前にも、母親に電話している。
「特段、変わったようすはなかったんですけどね。しかし、事件当日、容疑者が母親の留守中に想蒼ちゃんと一緒にいたことは事実。それがもともと一緒に住んでいたのか、その日だけマンションに来たのかは不明です。けれども、われわれとしては、できる限りのことをしたと考えています」(前出・市)
一方、児相はというと一部のマスコミには「深刻に受け止めている。対応が適切だったかは改めて検証する」と答えている。想蒼ちゃんへの対応が結果的に失敗ではなかったか、児相としてどれだけのことをしてきたかなどをきくために取材を申し込んだが、「今日、明日とも多忙で取材には応じることができません。いや、今後いっさい取材は受けませんので」とのことだった。
数か月前、容疑者夫婦は想蒼ちゃんを失った川口市のマンションを退去し、約5キロほど離れた草加市のメゾネット式アパートへ移住。だが、そこで夫婦を知る住民は皆無だった。雨戸も閉じられたままのようだった。
母親はなぜ容疑者と離れることができなかったのか……。謎の多い事件だが、幼い命が失われたことだけは間違いない。