「頂き女子」の次は「一撃男子」…ミナミのホスト逮捕で浮上した驚きの違法請求マニュアル

「一撃講習」。大阪府警に摘発されたあるホストのパソコンに、そんなファイルが保存されていた。名前から連想されるような迷惑客の撃退法ではない。ナンバーワンにのぼり詰めるためのハウツーとも違う。「一撃」とは一見客の接客法。たった1回の来店で「最大限の売り上げを作る方法」をうたっているが、なんのことはない、中身は違法行為のオンパレードだ。こんなマニュアルを渡されて、実践するホストがいるはずが…。
常連客でなくても…
社会問題になっている悪質ホストの典型的なやり口は、客に多額の売掛金(ツケ)を背負わせ、性風俗店などで働かせて回収するもの。だが、これは足しげく通ってもらうのが前提で、そもそも一見客には通用しない。
「一撃講習」は、本来もうけにならないはずのそんな一見客から、いかに大金をせしめるかについて書いている。ほぼ一日で完結するそれらの行為を総称して「一撃」と読んでいたとみられる。
このマニュアルを持っていたのは藤岡駿介容疑者(26)。大阪ミナミの雑居ビルに店を構えるホストクラブ「Aria(アリア)」の代表代行を務めていた。
4つの条件
《一、「彼女」であること
一、「昼職」であること
一、20歳以上であること
一、ホストについて知識がないこと》
(一撃講習より)
事件の発端は昨年5月ごろ。兵庫県内の20代女性がマッチングアプリで知り合ったのが、アリアのホスト(当時)、藤咲湧斗容疑者(24)だった。
そこから2人はデートを重ね、女性は藤咲容疑者の「彼女」であると思い込んだ。相手の職業がホストであることは知っていたが、そもそも店で出会ったわけではない。そんななれ初めも、女性の警戒感を鈍らせたかもしれない。
6月中旬、2人で居酒屋で会食をしていたときのこと。藤咲容疑者が突然こう切り出した。
「店のミーティングに遅刻する。同伴してくれれば、遅刻の罰金は免れる。初回は3千~4千円やから」
やむなく女性は藤咲容疑者に伴われ、アリアを客として訪れた。
「払うまで帰られへんから」
《・女の子が正常な判断が不能になるほど酔わせる
・適当なシャンパンを開ける。値段は出さない、言わない、提示しない
・「これどうするの」と演技して女の子自身の判断を仰ぐ》
(一撃講習より)
アリアで席についたホストたちは、テキーラなど強い酒ばかりを飲ませ、次第に女性の意識はもうろうとしていった。
《・伝票の裏書きは必ず書かせる。どんなに酔って「書けない」と言っても書かせる
・翌日まで必ず一緒にいる。必ず借り入れさせる》
(同)
藤咲容疑者は酩酊(めいてい)した女性を大阪市中央区のホテルまで連れて行き、日をまたいだ翌日午前2時ごろ、こう迫った。「いっぱいお酒注文してたよね。お金払うまで帰られへんから」。その言葉通り、女性は朝までホテルに留め置かれた。
ホテルを出ると、今度はカラオケ店の個室へ。そこで待ち構えていたのが藤咲容疑者の上司である藤岡容疑者だった。
「消費者金融で上限マックスまで借りろ」。女性は藤岡容疑者にこう脅され、消費者金融の自動契約機をはしごさせられた。大手3社から計約100万円を借り入れ、前日からのホストクラブの料金として108万7千円を支払わされた。
「借り入れ」マニュアルも
事態を把握した大阪府警南署は今年10月までに女性への監禁、強要、恐喝の容疑で藤咲、藤岡両容疑者とアリア店長の澤井健太容疑者(37)を逮捕。一連の捜査の過程で「一撃」マニュアルをはじめ、店舗ぐるみの計画的な犯行だった可能性が浮上した。
藤岡容疑者のパソコンには「一撃」のほか、新人ホスト向けの「借り入れ講習」と題するマニュアルもあった。
「借り入れ講習」は、文字通り消費者金融で女性に借金させる方法を説く。《20歳以上、昼職(アルバイトも可、勤続年数1年以上)、過去に負債がない》という3つの条件を挙げ、消費者金融大手から借金させることを念頭に《年収3分の1まで借り入れ可能。年収300万円の場合、100万×4社=400万円》と例示している。
《一日のうちにやってしまう》《(消費者金融の)建物には必ず一人で入ってもらう。これは(防犯)カメラを後で見たとき(女性が)自主的に入っていることの証明になる》などと細かい点も書かれている。
ホストクラブの高額請求を巡っては、警察庁が有識者による検討会を設置するなど、風営法改正も視野に対策に本腰を入れている。
社会問題化するきっかけとなったのが「頂き女子りりちゃん」を名乗る女が、男性の恋愛感情を利用して現金をだまし取るマニュアルを販売していた事件だった。女は男性からだまし取った多額の金をホストに貢いでいたことが分かっている。
「一撃講習」が「頂き女子」に触発されたものかどうかは分からない。同署は他にも同様の手法で被害に遭った女性がいるとみて全容解明を進める。(木津悠介)

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