8日から被告人質問
和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた会社経営者を殺害したとして、殺人罪などに問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判は9月から和歌山地裁で計17回の公判が開かれ、検察側の立証がほぼ終了した。直接証拠がない中、被告が無罪を主張しているのに対し、検察側は20人超の証人尋問を実施。審理は8日に被告人質問が始まる予定で、発言が注目される。
起訴状では、須藤被告は2018年5月24日、夫だった野崎幸助さん(当時77歳)宅で、何らかの方法で野崎さんに致死量の覚醒剤を摂取させて殺害したとしている。
須藤被告は9月12日の初公判で「私は殺していません」と否認。検察側は冒頭陳述で、離婚を切り出された被告が遺産目的で殺害したと主張した。
主な争点は、〈1〉野崎さんは殺されたのか(事件性)〈2〉殺されたとして須藤被告が犯人なのか(犯人性)――の2点だ。検察側は10月28日の第17回公判までに、予定する証人28人のうち27人の尋問を実施した。
検察側は冒頭陳述で「自殺や事故死の可能性はない」と強調した。
証人尋問では、野崎さんの複数の知人が「自殺の兆候はなく、通院予定があった」「覚醒剤を使っていたなんて聞いたことがない」と証言した。
野崎さんの遺体の解剖医は、胃の内容物の覚醒剤濃度が高く、口から摂取したと説明。薬物中毒に詳しい学者は「覚醒剤は苦く、口に入れば味がおかしいと気付くはず」と述べ、誤飲の可能性は低いと指摘した。
検察側は、解剖結果などを基に、死亡推定時刻は午後8~10時頃、犯行時間帯は午後4時50分~8時頃と主張。この間、野崎さんと被告が自宅で2人きりだったことから、「被告以外に犯人はいない」としている。
被告のスマートフォンに入っていた健康管理アプリの記録を証拠とし、「犯行時間帯に少なくとも8回、野崎さんがいる2階に上がっていた」と指摘した。
被告が死亡前後に「覚醒剤 過剰摂取」「完全犯罪」などのキーワードでインターネット検索した履歴や、死亡後にSNSで友人に「財産をもらうつもり。欲のせいで足元をすくわれたけど」などと送っていたデータも提出した。
覚醒剤の密売人も「被告と思われる女性に覚醒剤を売った」と証言している。
一方、弁護側は「野崎さんに知られず覚醒剤を飲ますことができるのか」と反論している。
解剖医への反対尋問では、「死亡推定時刻はずれが生じうる」と指摘。アプリのデータについても、正確性を疑問視するなどした。
被告は逮捕後、黙秘しており、死亡当日の被告の行動に関し、弁護側は「被告人質問で明らかにする」としている。被告人質問は8、11、15日の3日間を予定しており、被告が自ら詳細を説明するとみられる。判決は12月12日に言い渡される。