日本語覚える気ない…実習生の質も低下 外国人材制度はゆがんだビジネスから脱皮できるか

外国人材の受け入れ制度として30年以上続く技能実習では、劣悪な職場環境でも転籍(転職)が原則認められず失踪が相次いでいる。対策として政府は今月、転籍を認める要件の明確化を図ったが、制度を取り巻く問題はこれだけではない。日本語を覚える気もない実習生、監査を怠り機能不全の監理団体-。令和9年にも技能実習に代わる新制度「育成就労」が始まるのを控え、実習生の受け入れ企業からは「本当に改善されるのか」と疑問視する声も上がる。
「言葉を学ぶ意思がなく、やる気があるのかも分からない」。広島市内で塗装会社を経営し、技能実習生を受け入れている才峠(さいのと)光治さん(54)はこう嘆く。
才峠さんが実習生を受け入れ始めたのは約10年前。ベトナムに旅行した際、知人から依頼を受けたのがきっかけだ。当初は面接で「一生懸命なのが伝わった」とし、実習生としてベトナム人8人を含む10人を受け入れてきたが、徐々に「質」が落ちてきたという。
セメントに混ぜる水をバケツにくむよう指示しても伝わらない。休憩時間が終わっても休み続ける。才峠さんは「水という言葉も分からない。せめて簡単な日本語ぐらいできないと」とぼやく。
現行の実習制度では、多くの職種で入国時の日本語試験が必須ではない。新制度では来日前に最も初級の日本語能力試験「N5」の取得など一定の水準が求められるが、才峠さんは「もう社員を日本人に戻すかもしれない」と打ち明ける。
実習生は転籍が原則3年認められず、勤務先から姿を消す失踪者は昨年、9753人と過去最多を記録した。2年前にフィリピンから来日し、四国で実習生として働いた男性(32)も「月の手取りは約8万円。責任者からは『ばか』『邪魔』と罵られ、耐え切れずに逃げた」と話す。
出入国在留管理庁は今月1日、実習制度の運用要領を見直し、転籍の要件に暴行やパワハラ被害などを明記したと公表した。ただ、受け入れ先を指導する役割を持つ監理団体も十分に機能しているとは言い難い。才峠さんは加盟する監理団体に組合費として毎月4万円を納めるものの、「3カ月に1回以上の実施が求められる監査も行っていない」と訴える。
実際、制度を監督する「外国人技能実習機構」による令和5年度の実地検査では、対象の4537団体のうち2352団体(51・8%)に監理・指導が不適切といった法令違反が見つかった。新制度では監理団体を「監理支援機関」として中立性を高め、外部監査人の設置を義務付けるとするが、受け入れ側は「この程度で機能するのか」と冷ややかな視線を送る。
3年後にも始まる新制度は同じ業務分野で転籍が認められるため、受け入れ企業が今後、外国人材の育成に十分なコストをかけなくなる懸念もある。才峠さんは「新制度は問題が改善するように見えて、われわれ(受け入れ企業)には無理がある。より抜本的な解決策が必要だ」と語った。
借金してでも来日 技能実習制度ビジネスのゆがみ
技能実習制度を巡って過酷な労働環境などの問題が山積する中、アジア各国から来日する実習生は後を絶たない。出入国在留管理庁によると、令和5年の実習生は約40万人で、10年前に比べて約2・5倍に増えた。背景には実習生の送り出しが現地でビジネス化している側面もある。
実習生を日本に送り出す現地機関の多くは、実習生から手数料などの報酬を得ている。厚生労働省の委託で「三菱UFJリサーチ&コンサルティング」が昨年、ベトナムなど4カ国の送り出し機関に実施した調査(186機関回答)によると、実習生1人当たりの支払い額は20万超~30万円が最多(30・1%)。次いで30万超~40万円(26・9%)だった。
ただ、同庁が令和3~4年、実習生約2千人に実施した調査によると、実習生が母国で支払った費用総額の平均は約54万円。来日のために母国で借金したのは54・7%に上り、ベトナムやカンボジアでは8割以上が借金している状況だ。
現地の送り出し機関は、日本の受け入れ側である監理団体からも手数料などを得ており、日本に向かう実習生が増えるほど、手に入る報酬が増える構図だ。現地の事情に詳しい関係者は「来日して多額の給与を稼ぎたい実習生の希望につけ込む形で、現地でビジネスモデルが成立してしまっている」と指摘する。
ビジネス色強い仕組み改めを 神戸大大学院准教授の斉藤善久氏(労働法)
技能実習制度の問題として、民間企業のビジネス的側面が強い点が挙げられる。現地の送り出し機関や国内の一部監理団体が利益を追求した結果、実習生や受け入れ企業は金銭面を中心に負担が大きくなっている。
この結果、日本語を話せない実習生が大量に送り込まれている。新たな育成就労制度では、受け入れ時に一定の日本語能力を要求するものの、水準は非常に低く、会話が成り立つかは不透明だ。
新制度では転籍も認められるようになるが、対象の業種はどこも人手不足で、転籍されたら痛手となる。しかも、本人の意向で転籍するには一定水準の日本語能力が求められる。日本語の勉強をさせないよう有給を与えないといった労働基準法違反に手を染める企業が出てくるかもしれない。これは現行制度でも起きている問題で、決して可能性は低くない。
新制度に移行すれば問題が全て解決するとは言い難い。民間ビジネスの側面が強い仕組みを改め、行政などがより積極的に関与する仕組みにする必要がある。(鈴木文也)

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