小学6年と中学3年を対象に毎年実施している「全国学力・学習状況調査」(全国学力テスト)を巡り、成績の公表方法を見直すよう求める声が一部の知事から上がっている。現行の都道府県別では過度な競争を招くなどとする意見を踏まえ全国知事会がアンケートを実施。過半数の自治体が現行方法を支持したが、文部科学省は見直しを検討する。
少数でも声が大きい
「現行の方法に否定的な回答が一定数あった。改善の方向を検討する」
阿部俊子文科相は11月29日の定例会見で、知事会のアンケート結果にこう述べ、今月開催する有識者会議で公表方法の見直しを提案することも明らかにした。早ければ令和7年度から変更される。
ただ、全47都道府県知事を対象にしたアンケートでは、53%(25人)が現行方法を支持。「全国の状況のみ公表」を求めたのは30%(14人)で、落としどころは難しい。
全国学力テストは毎年4月に実施。夏に文科省が都道府県と政令市ごとの平均正答率などの結果を公表している。ここから順位付けされることに抵抗のある自治体がある一方、成績上位の学習指導方法を参考に成績を伸ばした自治体もある。
文科省幹部は「アンケートの結果が少数でも声が大きいと無視できない」と困惑する。
毎年やるのか
昭和31年に始まった全国学力テストは、自治体間の競争をあおるなどの批判から41年に廃止。その後、国際的な学力調査で日本の子供の学力低下が明らかになり、ゆとり教育の効果も疑問視されて平成19年に再開した。
これまで都道府県別の公表方法に大きな変更はないが、8月に福井県で開催された全国知事会で複数の知事が疑問を呈した。滋賀県の三日月大造知事は、「意味があるのか分からない問題を解かせられながら、平均正答率で並べ比べられる」と全国学力テストのあり方の検証を提起。和歌山県の岸本周平知事も「生成AI(人工知能)が普及する中で、教科書を覚えて答えるようなテストをし、その平均点を眺めることを毎年やるのか」と同調した。
一方、福井県の杉本達治知事は、「学力テストを行うことで国際的な日本の学力水準が高くなったという事実もある」と反論し、知事会で意見集約することとなった。
寝耳に水
全国知事会の動きに、文科省幹部は「寝耳に水だ」と驚きを隠さない。過度な競争への配慮から、平成29年度には、それまで小数点以下まで示していた平均正答率を整数で公表する方法に変更するなど対応してきたからだ。
アンケートを取りまとめた全国知事会文教・スポーツ常任委員会副委員長の河野俊嗣・宮崎県知事は文科省による公表方法見直しの動きを評価している。河野氏は11月25日の全国知事会で「さまざまな意見はあったが、知事会の動きが一石を投じた」と発言。全国知事会長の宮城県の村井嘉浩知事は、「ここで一旦は矛を収める。有識者会議の検討の結果に納得いかなかったら、さらにまた意見をまとめて文科省に出す」としており、今後も予断を許さない。(楠城泰介)
東京学芸大学教職大学院 堀田龍也教授「成績公表は教育改善につながる」
都道府県別の平均正答率を公表してきたのは、かつて自治体ごとの差が大きく、義務教育として是正する必要があったからだろう。公表しているうちに底上げが計られ、その差も縮小している。依然に比べて平均正答率を公表する意義は小さくなったかもしれない。
だからといって、過半数の自治体が現行方法を望む中で、都道府県ごとのデータの公表をやめるというのは乱暴な意見だ。学力分布の現状なども公表すれば教育改善につながるのではないか。
毎年実施する必要があるかどうかも何度も議論されてきた。抽出調査に変更されたこともあったが、多くの学校が実施を希望した。学力を把握して教育改善をしたい学校側のニーズもある。
同時に行われる学習状況調査で分かる情報は宝の山だ。公教育の実態を確認して学習環境を良くする機会を設けることは行政としても望ましい。
今後、調査がパソコン端末を活用して出題・解答する新方式(CBT)になることで現場の負担が減り、結果の公表がスムーズになることも期待される。(談)