最後尾まっしぐら、無言で刺す 北九州中3殺傷見えぬ動機 不条理犯行に生徒「眠れない」

北九州市小倉南区のマクドナルド店舗で、中学3年の男女が刺され、死傷した事件で、男子生徒(15)に対する殺人未遂の疑いで20日に送検された無職、平原政徳(ひらばるまさのり)容疑者(43)。中学生2人と面識はなかったとみられ、動機は見えてこない。身近なファストフード店を舞台に、地域社会を震撼(しんかん)させた事件は21日で発生から1週間となるが、子供らの心理的動揺は収まっていない。
福岡県警によると、平原容疑者が現場の「マクドナルド322徳力店」に車で乗りつけたのは14日午後8時10分ごろ。それから店舗に入店するまで、十数分間待機していたとみられる。
襲われた2人も午後8時10分ごろに来店。受験勉強をするためまず店内の席を確保し、レジ前で注文の列の最後尾に並んでいたところ、まっすぐ足早に近づいてきた平原容疑者とみられる男に、無言のまま立て続けに刺された。男の入店から刺して逃げるまで、わずか十数秒だった。
致命傷になりかねない傷を負った男子生徒や、死亡した中島咲彩(さあや)さん(15)との接点は確認されておらず、平原容疑者が事前に2人の後を追っていたような形跡もないという。その犯行態様からは、人目もはばからない、通り魔的な印象を受ける。
平原容疑者の一戸建ての自宅は、現場のマクドナルドから車で5分程度の住宅街にある。現在は1人暮らしで、周辺住民によれば軍歌のような音楽を大音量で鳴らし、昼夜問わず叫び声を上げるなど、奇行が目撃されていた。
「捕まることを全く恐れておらず、非常に雑な犯行だ」と指摘するのは新潟青陵大大学院の碓井真史教授(社会心理学)。「孤独や絶望で人生を終わらせたいが自殺では納得がいかず、最後に自分の思いを晴らそうとしたことも考えられる」とみる。
奈良女子大の岡本英生教授(犯罪心理学)は「自分が社会とつながっていないため、うまくいっている人間に一方的に恨みや腹立ちを募らせたのかもしれない。中学生2人が仲良くしているのを見て怒りを感じた可能性もある」と推測する。
事件は誰もが訪れたことがあるファストフード店舗内で起き、2人が巻き込まれた理由も分からないだけに、理不尽さが前面に立ち、生徒らの間で動揺が広がっている。
北九州市教委などによると、中島さんが通っていた中学校では、事件翌日の15日からスクールカウンセラーを増員。生徒らからは「夜眠れない」「一人になるのが怖い」といった相談が寄せられているという。
16~19日には、市立学校に通う児童生徒延べ約1万人が事件への不安を理由に登校を控えた。スクールカウンセラーとしても活動する碓井氏は「逮捕されて大人は一安心と思うが、子供にはしばらく心のケアが必要だ」と話す。実際、容疑者逮捕後の20日も478人が登校しなかった。
冬休みを控え、市は子供の心身の不調について兆候を記載したリストを保護者向けに配布。24時間態勢の相談窓口の情報も紹介している。19日から始めた市職員による約千人態勢の登下校見守りも終業式の23日まで行う予定だ。
教育評論家の尾木直樹氏は「子供たちは生まれてから最大の恐怖を味わっただろう」とおもんぱかる。子供の心の傷やストレスは、食欲不振や腹痛、意欲の減退など身体に現れることも。「大人は身近にいる子供の変化をよく見て、精神状態を把握してほしい。『大丈夫』『守るよ』ということを言葉や態度で伝えることが大切だ」と指摘し「悲しみや怒り、理不尽さを抱えている子供は多い。感情を抑えるのではなく、大人も一緒に共有してあげると、子供は安心する」と話した。(木下倫太朗)

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