「雇用の流動化を図っていかなければならない。慎重な上に適切な見直しをすべきだ」
5日の参院予算委員会で、石破茂首相(67)が言及したのが、同じ会社に長く勤めるほど退職金の課税が優遇される制度についてだった。
いわゆる「退職金課税」に関する現行制度は、退職金支給額から退職所得控除額を引いた額の2分の1に所得税を課す仕組みだ。控除額は、勤続20年までは1年につき40万円で、20年を超えると1年につき70万円。例えば、勤続30年で2000万円の退職金を受け取る場合、控除額は1500万円となり、これを引いた500万円の半額250万円に対して所得税がかかる。
岸田政権の肝いりだった「新しい資本主義実現会議」は、この仕組みについて「自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある」と説明。経済財政運営の指針「骨太の方針」では「成長分野への労働移動の円滑化」を目的として「退職所得課税制度の見直しを行う」と盛り込まれた。
そして昨年12月の政府税制調査会の専門家会合でも、現行の退職金課税制度は「転職する人が増える今の実態にあわない」「勤労意欲に悪影響を与えない制度が望ましい」といった指摘が相次いでおり、その扱いが注目されていた。
■老後の年金は期待できず、ささやかな希望だった退職金さえも減らされる
長く働くほど有利になる退職金制度があるため、働く人が転職を躊躇してしまう。これを見直せば、人材の流動化が進むはず。国はこう考えているようだが、果たしてそうなのだろうか。退職金課税制度の見直しは岸田政権で取り上げられた際も、賛否両論が渦巻いたが、石破首相が改めて「適切な見直しをすべき」と踏み込んだことで、SNS上では早速こんな声が飛び交った。
《結局は増税か。またサラリーマンをいじめるのか》
《何十年も勤務して、やっともらえるご褒美にも税金を課す。どうかしている》
さらに目立ったのが《ここでも“狙い撃ち”されているのが氷河期世代》といった意見だ。
この日の参院予算委でも、立憲民主党の吉川沙織議員(48)は「自民党の税調会長は、この(退職金課税制度の)見直しについて猶予期間が10年~15年必要と明らかにしている。この発言に従えば、就職氷河期世代で偶然に運良く職に就けて働けている人はちょうど見直しの施行時期に当たる。著しく控除額が減るようなことがあれば、退職後の生活や人生設計に影響甚大だ」と迫っていたが、その通りだろう。
90年代半ばから2000年代前半にかけて学校を卒業したものの、バブル景気崩壊などで就職口は乏しく、派遣社員でやっと見つけた職も突然のクビに怯えながら働く日々。辛うじて正社員になれたものの、給与は増えず、後から入社する若手の初任給だけが爆上がり。老後の年金は期待できず、ささやかな希望だった退職金さえも減らされる。「氷河期世代の一揆」はもはや時間の問題ではないか。
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