夫婦別姓で親子の名字がばらばらに。「社会的に相当混乱する」と保守派。別姓導入で先行する海外の解決策とは

夫婦が異なる姓を選んだ場合、子どもの名字はどうなるのか。国会で議論が進む選択的夫婦別姓を巡り「子の姓」が課題の一つに浮上している。 保守派の代表格で、制度導入に慎重な姿勢を維持する自民党の高市早苗氏は、2月の自民党の会合後に次のように述べている。「ファミリーネームがなくなり、子どもの氏もばらばらになる」 別の会合では、子の姓が決まらない場合に長期間「無戸籍の子」になる可能性を指摘した。「親子も別姓にできるということになると、その間、皆さん相当混乱されますよ。社会的に」と強調した。 こうした状況に専門家は「子の問題を導入できない口実にしてはならない」と指摘する。 海外に目を向けると、別姓制度を導入した後に課題を解消した国もある。先行事例に学べることはあるだろうか。(共同通信=三野多香子)
▽別姓導入…想定される、子どもを巡る課題は
会合であいさつする自民党の高市早苗氏(右)=東京・永田町の党本部
仮に日本で別姓制度が導入された場合、子どもの名字にどんな課題が生じるだろうか。
まず考えられるのは、夫婦間の話し合いがまとまらない場合だ。家庭裁判所に判断を委ねる案が挙げられている。ただ、「家裁が決めるのは難しいのではないか」との声も根強い。裁判所でも、判断する根拠を見いだしにくいことが想定されるからだ。きょうだいで姓が分かれる場合への対応を課題に挙げる声もある。 こうした課題は、いま同姓で暮らす夫婦にも突きつけられる。仮に夫婦別姓が導入されれば「経過措置」として、それぞれ別姓に戻せる期間が設定されるとみられていることがその理由だ。
別姓導入に向けて、子どもの姓の選択問題が障壁とされ、ブレーキをかけかねない状況。では、別姓が主流の海外では子どもの姓の問題をどう解決しているのだろうか。
▽別姓導入の海外ではどうしてる?

法務省によると、夫婦同姓を義務付ける国は「把握する限り日本だけ」という。海外にも夫婦同姓制度の国はあったが、そこから別姓制度を導入したケースは少なくない。こうした国の一部では、別姓導入後に子の姓の問題が浮上し、法律を改正している。
【ドイツ】 まずはドイツの例を見てみよう。AP通信などによると、ドイツでは子どもは両親どちらかの姓しか付けられないことが課題だった。だが、5月に始まる新たなルールでそれを解消しようとしている。子どもが両親の姓を合体させた「複合姓」を選択できるというものだ。たとえば両親の姓が「ミュラー」と「シュミット」の場合、子どもはこれらに「ミュラーシュミット」という複合姓を加えた三つの姓の中から選べるようになる。
【スイス】 次はスイス。2013年に法律が変わり、夫婦別姓を選べるようになった。この際に複合姓の制度は廃止された。「配偶者の立場が平等になりつつある」のが理由だ。ただ、夫の姓に改姓する女性、夫の姓を名乗る子どもは多いままだった。 その後、別姓の親子には手続き上の不便があるとして、複合姓を復活させる機運が高まった。議会では、子の姓で“二者択一”を迫られることが「両親の権利の平等に反する」と指摘があったという。
【フランス】 子の姓に対する夫婦平等のムーブメントは、別姓が原則の国でも沸き起こった。フランスは特別な手続きをしない限り、子どもは父の姓を名乗る運用だった。しかし「父と母の姓には同じ価値がある」と反対運動が拡大。2022年の法改正で手続きが簡素化された。母の姓や複合姓を付けるハードルが下がった。
▽日本は女性の改姓が圧倒的、子どもは夫の姓に
日本の民法は婚姻時に夫か妻の姓を称するよう規定し、子も両親と同じ姓となる。制度上は夫婦どちらの姓に統一してもよい。だが、内閣府の調査では、2023年に婚姻届を提出した夫婦のうち94・5%が夫の姓を選択。子どもも必然的に夫の姓になる。 こうした状況に、国連の女性差別撤廃委員会は2024年10月、女性への「差別的な法制度」として、日本政府に夫婦別姓が可能となる制度を導入するよう、4回目の勧告をしている。
▽子の姓の問題、口実にしないで
中井治郎さん
日本で導入されていない背景に何があるのか。姓の問題に詳しい文教大の中井治郎専任講師(社会学)に聞いた。
中井さんは「困っているのがほとんど女性であることが最大の課題だ」とする。改姓による困難や、悲しみを体験するのは圧倒的に女性。その経験がない男性には、問題を理解されにくい。 「これまで女性の課題は、男性によって代弁される形で前進してきた。社会の意思決定層に女性が少なく、男性に理解されにくい女性の問題は非常に進みが遅い」
中井さんは、別姓実現後に法律を“マイナーチェンジ”した国を念頭に「子どもの問題が解決してもまた別の問題が出てくる」と付け加える。そして、こう警鐘を鳴らした。 「事実婚の状態で法改正を待つカップルは多い。世界で活躍する女性も増えた。社会は変わっているのに、姓の制度だけがこのままでは傷口は広がるばかりだ」
最後に、子の姓が議論を妨げかねない現状への危機感を口にした。「導入に慎重な保守派は、伝統的家族観を押し出すだけでは世間に受け入れられなくなってきていると感じているのではないか。だから、より身近な子どもに議論を向けている。子の問題を導入できない口実にしてはならない」

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