千葉県木更津市の海岸で9~11月の夜間、漁業者以外がワタリガニ(ガザミ)などのガザミ類を採捕することが禁止された。一般人が捕っても漁業法の「密漁」には当たらないものの、2023年から外国人による大量捕獲が横行しており、海区漁業調整委員会が漁業資源や漁場への影響を懸念して規制を決めた。(渋谷功太郎)
3か国語で掲示
7月下旬、木更津市の牛込海岸入り口付近に大きな注意書きが張り出された。太字で目立つように、「9月から11月まで夜間、がざみ類の採捕は禁止です!」と書かれている。日本語だけでなく、中国語と英語版も掲示された。
規制の対象となるのはガザミ、タイワンガザミ、イシガニの3種類。千葉海区漁業調整委員会の指示により、牛込海岸と金田海岸の沖合で、一般人が午後5時~午前5時に捕ることを禁じた。従わない場合は、知事が指示に従うよう命じ、その命令にも違反すると漁業法の規定で1年以下の拘禁などに処せられる。
多くが中国人
規制のきっかけは、23年秋から、ガザミ類の活動が活発になる夜間に干潟へ入り、たも網で捕獲する外国人が急増したことだ。中国のSNSではここ数年、「木更津でのカニ捕り」「捕りすぎたから大半を友人に渡した」などといった写真や動画付きの投稿が拡散されており、これらの影響でガザミ類を狙う人が増えたとみられる。
地元の金田漁協によると、一番潮が引く大潮の干潮には100人以上来たこともあった。遊漁者は港や海岸付近の路上に大型の乗用車を止め、ヘッドライトをつけて干潟に入っていたという。
こうした事態に、漁業者からは乱獲や漁場管理への不安の声が上がった。同漁協の高橋敏夫組合長は「夜になるとホタルのように干潟に人が集まってきた。手当たり次第に捕るので、ワタリガニの漁獲量にも影響が出た」と話す。
だが、ガザミ類は漁業法における漁業権の対象生物ではないため、勝手に捕っても「密漁」に当たらない。県の漁業調整規則が認めるたも網などの漁具を使用している限り、一般人の採捕を取り締まることはできなかった。
パトロール強化
そこで県と市、地元漁協は昨年8~12月、両海岸で遊漁者による採捕の実態調査を実施した。
その結果、9~11月の干潮の夜間に遊漁者が集中することがわかった。調査の声掛けに応じた19人全員が外国人で、このうち16人が中国人、3人がベトナム人だった。半数以上が県外から来ており、販売目的の人はいなかった。
同委員会は、遊漁者による年間採捕量を約450キロと推定。漁業者の漁獲量の1~2割に匹敵することから、漁業資源への影響が無視できないと判断し、採捕の規制を決めた。
一方、過度な制限とならないよう、対象期間を今年9~11月の夜間のみとし、区域も問題が起きている両海岸に絞った。来年以降については、今年の状況を見て決める。
県などは両海岸のパトロールを強化し、チラシを配るなどして新たなルールを周知する方針だ。
高橋組合長は「今まではワタリガニを捕る遊漁者を見かけても注意できなかったが、『ダメだ』と言えるようになる。夜間に来る人が減れば、漁業者たちも安心できる」と話している。