乗客106人が死亡し、562人が重軽傷を負った平成17年4月のJR福知山線脱線事故の事故車両を保存する施設が12日、大阪府吹田市に完成した。JR西日本は同日、遺族・負傷者のうち希望者の案内を始めた。遺族らの間に慎重な意見があることなどを踏まえ、一般には非公開とする。
今年で事故から20年。JR西では今春、事故後に入社した社員が全社員の7割を超えた。事故原因の究明や再発防止を促してきた遺族らも高齢化が進み、後世への継承が課題となっている。
この日、2両目に乗っていた次男(38)が重傷を負った西尾裕美さん(67)=大阪府高槻市=が見学後に取材に応じ、「ぐちゃぐちゃになった車両を見て、(次男が)よく助かったという思いとともに、多くの人が亡くなったことに心が痛んだ」と話した。
施設はJR西社員研修センターに隣接し、地上1階、地下1階建てで延べ約3900平方メートル。事故では7両編成の電車が脱線し、前方の車両が線路脇のマンションに衝突して大破した。
JR西によると、1階に全7両を展示。1~4両目は衝突でつぶれたり、救助活動の過程で切断されたりして損傷が激しいため部品ごとに配置した。5~7両目は連結した状態で展示した。
施設は原則非公開。一方、事故の悲惨さを社内で継承するための研修に使用するほか、他の運輸事業者の安全担当者や、当時救護に当たった警察・消防の関係者らを内部に案内する計画もある。
施設に関しては被害者の間でも考えが割れている。次男の昌毅さん=当時(18)=を亡くした神戸市北区の上田弘志さん(71)は、「車両は(尼崎市の)事故現場の近くに置くべきだ。亡くなった方々の魂は、今もあの車両の中にある」と訴える。
過去の災害や事故の遺構保存を巡っては、被害者らの心情と教訓を後世に継承する意義、記憶の風化などさまざまな観点から議論となってきた。日本航空は昭和60年の日航ジャンボ機墜落事故で、航空安全を啓発するための教育研修施設「日本航空安全啓発センター」(東京)を平成18年に開館し、残存機体や操縦士らの音声を記録したボイスレコーダーなどを展示。全グループ社員が新人研修などで見学するほか、一般見学も受け入れており年間平均で4千人以上が訪れるという。