宝塚歌劇団(兵庫県宝塚市)が、劇団員以外の一部スタッフに適用した専門業務型裁量労働制について、西宮労働基準監督署が2021年9月、歌劇団に是正勧告をしていたことが分かった。毎日新聞の取材に、歌劇団が明らかにした。歌劇団は休日労働などの取り扱いについて指導を受けたと説明しているが「詳細については差し控えたい。労働基準監督署からの指摘には適切に対応しています」と回答した。
今年9月に劇団員の女性が死亡した問題を受け、西宮労基署は11月22日、労働基準法などに基づき歌劇団を立ち入り調査し、実態解明を進めている。しかし、過去にも行政指導を受けていた事実があり、労務管理の不備が組織全体に及んでいた可能性もある。
数年前に所属していた元スタッフによると、歌劇団と交わした雇用契約で、1日実働8時間を基準とする専門業務型裁量労働制を適用されていた。しかし、実態は舞台制作に携わる上司の指示で雑用をこなし、1カ月以上も休みがなく、深夜まで業務が続いたという。1日8時間を超える労働に見合う賃金や手当は支給されなかった。
専門業務型裁量労働制は19業務について、労働者が仕事の進め方や時間の使い方を決めることを前提に、労使協定で事前に設定した時間を働いたとみなす制度。この制度に対して、長時間労働や残業代未払いの温床になるなどの批判もある。
歌劇団は入団6年目以降の劇団員とは雇用契約(労働契約)ではなく、フリーランスの形式で業務委託契約を結んでいる。今年9月に死亡した女性は入団7年目だった。この点について、遺族側代理人は、実態としては使用従属関係があり、労働契約に当たると主張している。
その一方、歌劇団は入団5年目までの劇団員や一部スタッフとは雇用契約の関係にある。現在は266人を対象に、労働者の代表と、労働基準法に基づく時間外や休日労働に関する協定(36協定)を結んでいる。5年目までの劇団員は裁量労働制ではなく、繁忙期と閑散期の差が大きいなどの事情で変形労働時間制を適用している。いずれについても、歌劇団が労務管理の責任や安全配慮義務を直接的に負っている。【松室花実】