公称会員世帯数827万を誇る創価学会の拡大をリードした池田大作・名誉会長の死は、自民党が選挙で頼る「学会票」に多大な影響を与える。「池田氏の弔い合戦」となる次期総選挙を前に、事態は焦眉の急を告げている。【前後編の後編。前編から読む】
死の前日の党首会談
池田氏は創価学会の政界進出を主導し、「日本最強の集票マシン」として育て上げた。
公明党・創価学会にとって、次の総選挙は負けられない「名誉会長の弔い合戦」となる。すでに選挙準備も整えた。選挙の第一線に立つ学会の活動家がこう言う。
「統一地方選が終わった後、今年7月から秋の解散総選挙を前提に全国で準備をスタートさせ、9月からは臨戦態勢です」
山口那津男・公明党代表も10月23日の講演で「ここから先は(解散が)いつあってもおかしくないという心構えで準備をしたい」と語っていた。
だが、その選挙戦略を狂わせたのも岸田首相だ。首相は「減税」を武器に解散に踏み切る構えを見せていたが、支持率急落で断念に追い込まれた。
新聞・テレビが「岸田首相 年内の衆議院解散 見送る意向を固める」(11月9日のNHKニュース)などと一斉に報じた5日後、11月14日に山口代表は官邸で首相と1時間にわたってサシの党首会談を行なった。
政界にはこんな情報が流れている。
「公明党・創価学会はカネも人手もかけて選挙準備をしてきた。今さら止められない。山口代表は岸田総理に年内解散は本当にないのかと迫った」(官邸関係者)
その翌日、池田氏が亡くなった。創価学会の選挙支援を受けてきた自民党ベテラン議員が語る。
「公明党・創価学会としては、池田氏が亡くなったからこそ、学会をまとめるためにも早く選挙で結集して頑張りたいはずだ。解散できないまま選挙の時期がズルズルずれ込み、時間が経つほど弔い合戦という名目を使えなくなる。だから、以前にも増して早く選挙をやってほしい事情ができた。しかし、岸田首相にはもう解散する力はないし、仮に岸田政権のまま選挙になれば自民党も公明党も玉砕になってしまう。公明党も学会も、岸田首相では選挙を戦えないということがわかっているのでは」
自民党では“岸田おろし”の動きが表面化してきた。注目されているのが反主流派の重鎮、菅義偉・前首相の言動だ。
「国民になかなか届いていないのは、きちんと説明をする必要がある」
ネット番組で岸田首相の経済対策を批判し、同じ反主流派の二階俊博・元幹事長、森山裕・総務会長と会合を重ねている。
「菅─二階─森山で加藤勝信・元厚労相を総裁に担ぐ動きがある。加藤氏と仲がいい安倍派の萩生田光一・政調会長がそれに乗れば、強力な候補になる」(政界関係者)
公明党・創価学会はそうした自民党内の“岸田おろし”の行方を見極めようとしているようだ。選挙分析に定評がある政治ジャーナリストの野上忠興氏が指摘する。
「創価学会が自民党で最も信頼している政治家といえば菅前首相です。菅氏が次の総理総裁の擁立に動き、自民党内の流れが決まってくれば、それに連動する形で公明・学会が岸田首相にNOを突きつけ、新たな首相を据えて解散総選挙で弔い合戦に臨むシナリオは十分あり得るでしょう」
そうなれば、まさに“死せる池田、生ける岸田を走らす”ではないか。
(了。前編から読む)
※週刊ポスト2023年12月8日号