ネットで提案されているクマ対策は有効か、専門家に聞いてみた…山にエサまけばいいのでは?

富山県内でツキノワグマによる人身事故が相次ぐ中、ネット上では、クマを人里へ近づけないため、様々な方策が提案されている。多くは現実的ではないとされるが、その理由を県自然博物園ねいの里の赤座久明・野生鳥獣共生管理員に尋ねた。(聞き手・岸本健太郎)
――人里への出没を避けるため、クマの主食のドングリを集めて山にまけばいいとの声があります。
これまでクマは凶作の年に餓死していました。クマは冬に穴ぐらで子を産むのですが、十分な栄養が取れていないと産みません。このような自然の摂理の中で、クマの個体数は調整されてきたのです。
人間が不用意にエサを与えると、凶作でもクマは餓死せず、子を産み続けます。そうして個体数が増えると、山でエサが足りなくなり、結局、人里に下りてくることになるのです。
それに、ドングリを食べるのはクマだけではありません。山ではイノシシやシカもおなかをすかせています。クマのためにドングリをまくことで、畑を荒らす動物を増やすことにもつながります。
――麻酔銃で撃ってクマを眠らせ、山へ帰す方法もあるのでは。
子グマなら一発当たれば眠ってくれますが、成獣はそうはいきません。麻酔は効き目が表れるまで数十分かかります。興奮して暴れて、被害が拡大する可能性もあります。しかも確実に撃つには、クマに10~15メートルまで近づかないといけません。 檻 の中ならまだしも、外では逆に人間がやられる危険性があります。
麻酔銃は麻薬を使うので、撃つためには特別な資格が必要です。私も麻酔銃を撃てますが、学術調査目的で許可を得ているからです。一般の猟師が猟銃を使うのは、許可を得るのが難しいからです。
――人里に柿を食べに来るのであれば、山に柿を植えておけばいいのでは。
今の柿は人が開発した栽培植物です。自然に山に生えていることはありません。あの甘さはサルやハクビシンも大好きです。おいしい柿の味を覚えてしまった動物は「もっと食べたい」と思い、人里へますます下りてきます。
――捕獲したクマに人間の怖さを教えてから山へ放つ「学習放獣」という手法もあると聞きました。
学習放獣で、クマは人間に警戒心を持つかもしれませんが、捕獲された場所に忌避感を持つかどうかは微妙です。人間が思っているほど、簡単に効果が出るかはわからないのです。
クマは一定の地域にすむ習性があります。捕獲地点から20キロ以上離れた場所で放獣すると戻って来づらくなり、米国など森林が広大な国では有効な手法です。でも、国土の狭い日本では例えば、富山から遠くに放しても、岐阜に出没するかもしれません。それに放たれた先が別のクマの縄張りだと、争いに敗れて再び人里に姿を見せることも考えられます。
1日4回出動も…猟友会の負担増

クマの大量出没で、猟友会の負担も増えている。
富山市森林政策課によると、旧富山市内でクマ出没の通報があった場合、市猟友会で選ばれた50~80歳代の緊急捕獲隊員12人が出動する。隊員は人身被害のおそれがある際にクマを撃つ許可を県から受けている。
10、11月の出動は76件で、1日に4回も現場に向かったことがあった。市猟友会の杉本忠夫会長(76)は「今までにない多さ。市民の警戒が強まり、タヌキなどクマ以外の動物の痕跡でも通報されていることも原因だ」と話す。
緊急出動には1回3000円の報酬があるが、対応は数時間かかる。杉本会長は「なんとしても駆けつける。だが、ガソリンや道具代も考えればボランティアに近い」という。同課の杉林広和副主幹も「隊員には仕事を持つ人が多い。高齢化も進み、担い手の育成が急務だ」と頭を悩ませている。
県自然保護課によると、今年のクマの捕獲頭数は118頭(11月末段階)で、2021年(51頭)、22年(63頭)を大幅に上回っている。

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