地元「説明責任を」 安倍派4閣僚「更迭」 困惑と怒り交錯

自民党の最大派閥、安倍派(清和政策研究会)の政治資金パーティー裏金問題を受け、岸田文雄首相が14日、安倍派の松野博一官房長官ら4閣僚を交代させた。事実上の「更迭」に、地元の支援者や有権者からは「期待していたのに」「説明責任を果たして」など、さまざまな反応が渦巻いた。
「辞任遅すぎた」
松野氏のお膝元である衆院千葉3区(千葉市緑区、市原市)。8選を決めた令和3年の前回選挙では、多忙を極めた本人に代わり地元の政界関係者が選挙活動を担った。
「首相の信頼も厚く、政権が続くかぎりは官房長官を務められるのだろうと思っていた」。6年にわたって松野氏の秘書を務めた関学・市原市議は、残念そうに語る。
松野氏の印象について「とにかくまじめで偉ぶらない」とした上で「お金集めに熱心といった面は全くない。今回の問題は、あくまで(政治資金収支報告書に)記載がなかったというのが争点だ」と話した。
亡くなった父親が松野氏の支援者だったという市原市の60代主婦も「世襲議員でもなく地盤もない中、よく頑張っている。パーティー券は支援者が政治家を応援するために買うもので、税金に手をつけたわけではない」と擁護した。
一方、厳しい声も。市原市の無職、岡野正一さん(81)は「追及を受けるたびに『コメントは差し控える』と言っていて、非常に見苦しかった。辞めて当然だが、あまりに遅すぎたのではないか」と憤った。
「信じている」
農林水産相だった宮下一郎氏の地盤である衆院長野5区(飯田市、伊那市、駒ケ根市など)では、本人がパーティー収入を「適正に処理」していると言い続けてきた中での辞任に、複雑な思いが広がった。
地元後援会の杉本幸治会長は「大臣も否定しているし、私も会計責任者に確認し、なかったと信じている」と強調。「長く農林水産の仕事に関わり、大臣として(食料・農業・農村)基本法の改正を担当すると聞き、活躍を期待していた」と、無念さをにじませた。
飯田商工会議所の原勉会頭も「青天の霹靂(へきれき)というのが正直なところではないか。初入閣からわずか3カ月、予算編成の前に辞めざるを得なかったのは悔しいだろう」と、おもんぱかった。
「お金大事か」
一方、経済産業相を辞任した西村康稔氏の地元では、「何がどうなっているのか。自らの口で有権者に説明すべきだ」との声が上がった。
西村氏は兵庫県明石市と淡路島3市からなる兵庫9区の選出。地元の自民市議は「われわれも、故意なのかミスなのか何も分かっていない状態」と困惑しつつ「地元に帰ってきて自分の口で説明すべきだ。こうなってしまったからには出直すしかない」と突き放した。
西村氏を支援してきた洲本市(淡路島)の男性は、西村氏が派閥の事務総長を務めていた点に触れ「自分の代のときに旗を振って改善すべきだった」と指摘。「自分たちの小さな組織を変えることもできないのに、日本を改善することができるのか。これ以上、応援すべきかどうか分からない」と厳しい表情をみせた。
同市の飲食店経営の40代男性は「コロナ禍の中でも先頭に立って頑張っている姿を見ていただけに残念」としつつ「正直な話、お金抜きで人々のために働いてくれる議員が一番なのだが、『やはりお金が大事なのか…』という思いだ」と打ち明けた。
「首相、派閥に強く意見できず」
政治アナリスト・伊藤惇夫氏
岸田派は自民党内で第4の派閥。首相は今回の問題発覚直後、各派閥に問題の実態について報告を上げさせるべきだったが、強く言えなかったのではないか。党内の雰囲気も昔とは違う。リクルート事件では若手議員が改革を求め立ち上がったが、今回は派閥の意向で自由にモノをいえないのか、そのような声はほとんど聞こえてこない。自民党という組織自体が変わってしまったように感じる。今は野党の力が弱く、ただちにその存在が脅かされることはないだろうが、この状態が続けば党そのものが自壊していく可能性もある。党内で徹底的に調べて実態を解明し、国民に向けて情報公開すべきだ。さらに抜け穴ばかりの政治資金規正法を改正して初めて、国民の信頼も回復できる。
「説明できぬ状況 重大な責任」
元東京地検特捜部検事の弁護士・郷原信郎氏
自民党の幹部らが捜査への影響を理由に答弁を拒否しているが、認められる場合として、2つのケースが考えられる。まず、黙秘権は被疑者の当然の権利であり、行使は可能。もう一つは、官房長官らの立場であれば、発言が捜査に影響する可能性は十分に考えられ、一般論的に答弁拒否の理由になり得る。だが、説明を尽くせない状況になっていること自体、政治的には重大な責任だ。根も葉もない問題であれば、黙秘権の行使を考える必要もなく、拒否しているということは説明を差し控える必要があることを意味する。官房長官らは結果的に辞表を提出することになったが、政治責任が生じるのは致し方ない。

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