時事通信が発表した12月の世論調査によると岸田文雄内閣の支持率は17.1%。11月よりさらに4.2ポイント下がり、右肩下がりが止まらない。物価上昇に苦しむ人が多い中、適切な対策を講じる動きを見せず、自民党の「清和政策研究会」(安倍派)の政治資金パーティーを巡る裏金問題を受け、支持率の下落はしばらくは止まらないだろう。
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悪夢の岸田政権、解散までの秒読み
もはや“悪夢の岸田政権”ともいえる状況であり、解散総選挙を望む国民は少なくない。自民党としても支持率アップの見込みがないならば、解散というカードを切る可能性は決して低くない。とはいえ、近々解散することは現実的なのだろうか。『「NHKから国民を守る党」とは何だったのか?』(新評論)の著者で、選挙ウォッチャーとして日々選挙の動向を追っている、ちだい氏に話を聞いた。
岸田文雄首相 写真/共同通信
自民党支持者から見限られた岸田政権
支持率低下が止まらない理由の大前提として「支持率が下がるということは、それまで支持をした人が支持をしなくなったときに起きます。それまで支持をしていた人というのは自民党支持者です。なぜこのような現象が起きているのかというと、自分のことを保守と思っている人や“ネトウヨ”と呼ばれている人が岸田政権を批判するようになったことが挙げられます」と、ちだい氏は分析する。「例えば、共産党を熱心に応援している人たちは、最初から岸田政権には否定的です。とりわけSNSでは自民党支持者と交流を持つことはありません。共産党支持者がいくら『岸田政権ってダメだよね』と発信しても自民党支持者に届くことはない。裏を返せば、自民党支持者が『岸田政権ってダメだよね』と言うと自民党支持者に届きます。今まさにそういった動きが見られており、いわゆる“保守界隈”といわれていた自民党支持者たちがこぞって岸田政権を批判するようになったことが、支持率低下につながっているのです」続けて、「これまで自民党支持者として有名だった小説家の百田尚樹さんは、今では日本保守党を立ち上げて岸田政権を批判しています。自民党支持者が背を向けていることは明らかです」と語った。
岸田政権のいいところは?
自民党支持者から見ても岸田首相の政権運営は目に余るものが多かったのだろう。なぜここまで支持されない政権になってしまったのか。「“増税メガネ”と揶揄されている通り、物価高で苦しんでいる国民が多いにもかかわらず、さまざまな増税策を推進しようとしていることが大きいです。中でも、反対意見が多かったインボイス制度を強行したことはまずかった。インボイス制度が施行されたことにより、ただでさえもお金がない弱小零細企業から税金を取り、さらにはレシートごとに登録番号を入力したり、契約業者や個人事業主にインボイスに登録しているかどうかを確認したりなど、煩雑すぎる事務手続きが必要になりました。メリットがほとんどなく、国民を苦しめる制度といえます」増税推進だけではなく、「大阪万博の強行や防衛費増税など、国民が望んでいない政策は枚挙にいとまがありません。岸田政権を嫌いになる国民は増え続けるでしょう」と、ちだい氏は重ねていう。ちなみに、岸田政権で評価できる点を聞くと「批判ばかりしたくはないのですが、それでも全く見つからないんですよね」と困り顔を見せた。
2025年開催予定の大阪万博には根強い反対意見がある 写真/shutterstock
解散のタイミングはもう間もなく
パー券問題が今現在大きな注目を集めており、このままではますます不支持率は高まりそうである。このように国民の信頼が落ちつつある現状ではあるが、解散総選挙を実施して何とか政権を繋ぎとめようとするかもしれない。解散する可能性について聞くと、「『この時期に100%解散する』とは言えませんが」と答えつつ、「2024年1月の国会が始まるのと同時に冒頭解散するかもしれないです」と予想する。「2024年の通常国会では、野党から確実に公職選挙法違反疑惑を追及されます。自民党としても、これ以上追及されたくなく、追及されればされるほど支持率の低下は免れない。岸田政権としても自民党としても延命するために、今回の騒動を有耶無耶にできる最高のタイミングは1月しかありません。冒頭解散する可能性が高いです」
維新の支持率は頭打ち
仮に1月に解散した場合、議席はどのような変動を見せるのか。ちだい氏は「恐らく立憲民主党が最も票を伸ばします。ただそれは立憲民主党が素晴らしいからではなく『立憲民主党ぐらいしか投票先がないから』という心理が大きい。実際、小選挙区では自民党以外の選択肢が立憲民主党ぐらいしかありません」と消去法として立憲民主党が議席を伸ばすと推測する。ここ数年、勢いを見せている日本維新の会の躍進も想定されそうではあるが、「大阪万博のスキャンダルが相次いでおり、支持率は頭打ちで後は落ちるだけ。維新としても今さら開催を止めることは難しく、激しいバッシングをいくら受けても突っ走るしかありません。また、開催できたとしてもかなりショボい規模になることが予想されるため、そこでまたバッシングを受けるでしょう。場合によっては“ネタ”として消費され、維新のイメージはかなり悪くなりますね」と解説する。維新の先行きがいかに暗いかが見えてきたが、すでにその予兆は現れているという。「12月10日に行われた江東区長選では、日本維新の会から出馬した小暮裕之さんは5人中最下位。江東区の選挙区は東京15区です。維新としては容姿端麗で大手お菓子メーカーに勤務していた経歴を持つ金澤ゆいさんを総選挙に出馬させたい、と考えています。その選挙区でボロ負けしたため、維新はかなりのショックを受けたことでしょう。また、10月に開催された宮城県議選では、維新はかなり力を入れていた選挙だったにもかかわらず、59議席中2議席しか取れませんでした。確実に求心力は落ちていってます」
争点はやはり物価高対策
解散総選挙が1月に実施されたとして、明暗を分けるポイントはどこになるのか。「争点となるのは物価高対策になるでしょう。消費税減税をはじめとした国民の負担を軽減させる政策を打ち出せるかどうかが鍵になります。また、私が立憲民主党の選挙コンサルを担うのであれば、『もう自民党ではダメ!』『政権交代しかない!』というメッセージを前面に押し出して選挙に臨むようにアドバイスします。今現在、『立憲民主党は頼りない』という印象を持っている人が多い背景として、こういったメッセージが届いていないことが大きいです。むしろ強気なメッセージを前面に出さなければ、そこそこ議席が伸びただけで政権交代には至りません」
政権交代のためのウルトラCの存在
政権交代という言葉が出たが、ちだい氏は立憲民主党が政権交代をするための“ウルトラC”があると口にする。「もし立憲民主党から前・明石市長の泉房穂さんが立候補すれば、一気に政権交代に近い状態まで行く可能性はあります。泉房穂さんはメディアやSNSの使い方が非常に上手く、世間的なイメージは現在最強です。また、泉さんが出馬するとすれば明石市がある兵庫9区、この選挙区には西村康稔元経済産業大臣がいます。現在架空パーティー報道の影響で西村さんの支持は揺らいでおり、泉さんが出馬すればほぼ確実に当選できます。立憲民主党としても絶対に取りたい選挙区であり、泉さんが立候補してくれるかどうかは選挙戦を大きく左右します」
前明石市長の泉房穂氏 写真/共同通信
とはいえ、出馬したとしても立憲民主党から出ない可能性は低くなく、「泉さんは、自身で政党を立ち上げて出馬したいのでは、と感じています」と予想した。泉房穂氏の動向次第では選挙結果は大きく左右されるかもしれない。解散総選挙が実施されるタイミングはもちろん、解散総選挙が実施されたとき、立憲民主党をはじめとした野党が岸田政権、ひいては自民党の低迷が続いているこのチャンスをものにできるのか見ものである。取材・文/望月悠木
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