北日本がクマの襲撃に怯えている。12月2日には、那須塩原市(栃木県)で路線バスとクマが衝突。4日には、同市でクマがアパートの玄関を破壊。5日は、大船渡市(岩手県)の市営住宅の駐車場で男性がクマに襲われた。
なぜ、これほど多くのクマが出没するのか。東北芸術工科大の田口洋美名誉教授(環境学)は、こう語る。
■東京でも目撃情報
「人々の生活圏が縮小し、クマの縄張りが住宅地を“包囲”しているからです。
農地が放置され、柿などを収穫しないままなので、クマが食べにくる。つまり、クマが人里に降りてきたのではなく、人が集落からいなくなったんです。東京でも、都下市街地のすぐ裏に、クマが現れています」
事実、東京でも、今年4月から11月末までに149件のクマ目撃情報がある。
■横田徹の経験則
今年、何度も北海道でクマ狩猟をした戦場カメラマンの横田徹氏も、こう言う。
「北海道では林道を車で走行しているだけで、よくクマを目撃しましたね」
ウクライナ戦争をはじめ、多くの前線取材から生還し、クマと何度も対峙した横田氏は、経験則をこう語る。
「クマはイヌを警戒するので、北海道で渓流釣りする人はイヌ連れが多いんです。クマは臆病で人を襲うことはめったにないんですが、餌を食べているときは危険。興奮して攻撃してきます。
子グマと一緒にいるときも要注意。こうした状況下で出くわしてしまったら、対処法がない。走って逃げると追いかけてきますから、それだけは絶対ダメです」
■猛獣の臭いがしてきたら
クマに遭遇した秋田県の農家の男性に話を聞くと、「クマが近くにいると猛獣の臭いがするんです。あの異臭に気がついたら、動かないこと。そして、ゆっくり引き返すこと。積雪がある季節は、5本指の跡がつくクマの足跡はすぐに分かりますので、絶対に、その方向に行かないように」
それでも、クマと遭遇してしまったら……。県内全域でクマが出没し、人身被害も、年間最多を更新し続けている福島県の自然保護課職員は、こう言う。
「いきなり目の前で遭遇してしまった場合、地面にうつ伏せになって、頭と首筋を両腕で抱え込んで、クマが立ち去るのを待つしかありません。怖いですが、素手では到底、戦えません」
■冬眠に入るはずなのに…
ところで、クマはこの時期、冬眠に入るはずでは?
「福島県の内堀知事が4日の定例会見で、“12月は冬眠するはずだが、今年は依然として目撃情報が多い。生ごみを放置しないように”と異例の注意喚起を行いました」(地元紙記者)
この状況を前出の田口教授は、こう説明する。
「クマは、空腹のまま冬眠したら死んでしまうことを理解しています。餌のドングリの凶作も手伝い、冬もうろつく“穴持たず”と呼ばれるクマが出ているんです。自分の縄張りからはみ出したクマで、必死に餌探しをしているわけです」
前出の横田氏の「餌を食べているときは危険」との証言と照らせば、穴持たずの恐怖が分かるはず。対策はあるのだろうか。
■熊スプレーの使い方
「熊スプレーは有効ですが、消火器のように腰を据えて目の前のクマの顔目がけて噴射しないと、効果がありません。スプレーで対決するしかない場合は、クマと目が合っても、ビクビクしないこと。クマは顔つきを観察しています」(前同)
林業の縮小や炭焼き職人が減ったことで、「猟師の数も北海道は全盛期の4分の1程度」(横田氏)だとか。人間が都市部に集中したことで激増したクマ。今後も被害は増えそうだ。