障害者への性暴力、調査して判明した「おぞましい実態」 加害者の7割は近しい人 「なかったこと」にできるから?

障害者が受けた性暴力の実態は、これまでほとんど明らかにされていなかった。理由は、「障害者が大げさに表現しているのでは」と疑われたり、知的障害のために被害を認識しづらかったりするなど「なかったこと」にされてきたからだ。 法政大学助教の岩田千亜紀さん(現代福祉学部)が今年、被害経験のある障害者を対象にアンケートを実施。結果から浮かんだのは「加害者は、障害があると分かっていて性暴力をしている可能性が高い」というおぞましさだ。詳しい調査結果を聞いた。(共同通信=山岡文子)

▽被害者と近い関係 ―どのように調査を行ったのでしょうか。 身体障害や精神障害、発達障害などの当事者団体や、支援団体に協力をお願いし、インターネットでアンケートを行いました。回答者は18歳以上であることが条件です。最近受けた被害を思い出してさらに傷つかないよう、過去3カ月以内にドメスティックバイオレンスや性暴力、自殺しようとした人には依頼しませんでした。最終的に54人の回答を分析しました。このうち48人が女性、3人が男性、その他と回答した人が3人でした。

―どんな性暴力を受けたのでしょうか。 複数回答で最も多かったのが「同意のないボディータッチ」が43人。その次に多かったのは「不快な性的ジョーク」が31人、や「痴漢」が24人、「同意のない性交」が23人でした。 ―加害者はどういう人だったのでしょうか。 これも複数回答で計131件の事例が寄せられました。7割は、被害者と近い関係にある人です。「友人・知人」が18件、「養親・継親を含む親」が13件、「学校関係者」が12件、「職場関係者」が11件の他、福祉施設関係者、医療関係者など計91件が近しい人から性暴力を受けたという回答でした。「知らない人」からの被害は26件でした。 ―それは加害者が、被害者に障害があると知っている可能性が高いということでしょうか。 回答者の数が限られているため一般化はできません。しかし、その可能性は否定できません。被害を受けた場所は自宅が最も多く、職場や学校も比較的多く上がりました。こうした回答を併せて考えると、被害者が加害者を知っている場合、加害者は被害者の障害について知らないとは、極めて考えにくいと思います。 ▽信じてもらえない ―54人中47人の回答者は性暴力を複数回、受けたという集計結果も出ました。 「10回以上」と答えた人が20人もいました。断定はできませんが、親などの家族による性交が多いと推測できます。少なくとも、親を含む家族から被害にあいやすい実情が反映されていると思います。 ―どういうことでしょうか。 障害のある人は、身の回りの世話を監護者である親を含む家族に頼らざるを得ない場合が多いことと関係があります。親であれ、きょうだいであれ、監護者から受ける性暴力は拒否しにくいという構図と、調査の結果は一定程度、一致しました。 ―障害のある人は、なぜ被害を訴えにくいのでしょうか。 今回の調査でも、精神障害と発達障害のある人が「被害妄想と疑われたり『かまってほしい』からうそをついたと言われたりした」、知的障害の人から「伝えるのが苦手なので、誰にも信用してもらえず、そのままにされた」と自由記述で書いています。 こうした声は支援の現場では非常によく聞かれます。しかし事実として残らないケースが多いため、実態が分からないのです。

▽障害者も健常者も同じ ―こうした深刻な被害は、どこに相談すればいいのでしょうか。 全国に設置された「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」に連絡してください。残念ながら全てのワンストップ支援センターが、24時間365日稼働しているわけではありません。それでも、支援センターには、混乱しショックを受けている人の言葉をきちんと受け止められる専門家がいます。 性被害の相談は、最初がとても大切なんです。しかし、被害者の多くは勇気を出して話そうとしているのに否定されたり、被害者が悪いかのように責められたりします。このような二次被害を受けた被害者は、それ以上声を上げるのを諦めてしまいます。これは障害者も健常者も同じではないでしょうか。 ―なぜ性暴力被害者への二次被害が繰り返されるのでしょうか。 「レイプ神話」に代表されるアンコンシャス・バイアスが根強くはびこっているからだと思います。 象徴的な例が、イベント中に胸を触られた韓国のアイドルに対して向けられた「露出が多い服を着ている方が悪い」というネット上のコメントです。 ジャニー喜多川氏から性加害にあった被害者が誹謗中傷にさらされて亡くなりました。根底に「被害者も実はそれほど嫌ではなかったのではないか」などのレイプ神話が隠れていると感じています。 また「障害のある人は性暴力を受けない」というアンコンシャス・バイアスもあると私は感じています。社会は実際に起きている被害に目を向けようとしていないのですから。
「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」につながる全国共通の電話番号は#8891
▽同意なければ罪 ―今年の7月、刑法が改正され、同意のない性交とわいせつ行為は処罰対象になりました。 これまでの刑法は、加害者が被害者の抵抗を著しく困難にする「暴行・脅迫」があった場合に強制性交罪が適用されてきました。被害者がどれだけ激しく抵抗したかが問われていたんです。 しかし、改正された刑法では、強制性交罪と準強制性交罪は「不同意性交罪」に変わりました。強制わいせつ罪、準強制わいせつ罪も「不同意わいせつ罪」に統合されました。 これは被害者が恐怖で「フリーズ」したり、被害が長期にわたり抵抗できない心理状態に追い込まれたりした状況での性交やわいせつな行為は、処罰されるということです。 ―障害者にも適用されるのでしょうか。 この不同意性交罪と不同意わいせつ罪が適用される八つの要件の中に「被害者に心身の障害があること」が入りました。 もちろん、これで全てが解決できるわけではありません。しかし一歩、前進したと評価できます。 ―性暴力は、どうすれば減らせるでしょうか。 性暴力は上位の地位や立場にある人から、弱い立場の人に向けられることが多い犯罪です。しかし立場の強い人の発言が信用され、立場の弱い障害のある人の声は否定されるのが日本の社会です。 悪いのは加害者であって、被害者ではありません。 障害者が性暴力を受けない社会に変えていくためには、国際水準にのっとった性教育が必要です。それは人権と必ずセットでなければなりません。日本はこの点で決定的に遅れています。
× × × 岩田千亜紀(いわた・ちあき) 自閉症スペクトラム障害がある母親の子育ての困難さや、発達障害がある女性が夫から受けるドメスティックバイオレンスなど、障害のある女性の生きづらさや暴力による被害などを研究。「障害のある性暴力被害者の被害状況と相談支援の現状と課題―性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターに対する調査から―」も2023年に発表した。

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