米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設を巡り、斉藤鉄夫国土交通相は28日、防衛省による地盤改良工事のための設計変更申請を沖縄県に代わって承認する代執行を実施した。地方自治法に基づき、国が自治体の事務を代執行したのは初めて。県が反発する中で異例の措置となった。
防衛省は2024年1月中旬にも、米軍キャンプ・シュワブ東側の軟弱地盤が広がる海域で工事を始める。日米両政府が1996年4月に普天間飛行場の返還に合意してから約28年。返還条件とされた移設の計画は大きく進展する。移設完了は最短で12年後とされ、普天間返還は30年代半ば以降となる見通し。
代執行は28日午前、国交省内で実施された。公有水面埋立法を所管する国交省の担当職員が、防衛省沖縄防衛局の職員に対し、国交相が知事に代わって承認すると記載した承認書を手渡した。承認書には、申請者として沖縄防衛局と記載され、国交相の印鑑が押されている。承認書交付の場面は非公開だった。
代執行は地方分権改革に伴い、00年施行の改正地方自治法に盛り込まれた。国が都道府県に委ねている「法定受託事務」を怠った場合などに、担当相が代わりに事務を行う。
地盤改良工事は移設先の埋め立て予定海域で軟弱地盤が見つかり、必要となった。沖縄防衛局は20年4月、地盤改良のため工事の設計変更を県に申請。県が応じなかったことから、国交相が承認するよう是正を指示した。これに対し、県は指示が違法だとして提訴したが、23年9月の最高裁判決で敗訴が確定した。
その後も県は承認せず、国交相が代執行訴訟を提起し、今月20日、福岡高裁那覇支部が判決で、知事に承認を命令した。判決は、県の承認しない対応について「社会公共の利益を侵害する」「代執行以外での是正は困難」と指摘。一方、県は判決を不服として27日に最高裁に上告している。
辺野古移設のために埋め立てる海域はキャンプ・シュワブの沿岸部約152ヘクタール。15年10月に本体工事に着手したが、軟弱地盤が見つかった東側の海域(111ヘクタール)では17年4月以降、一部護岸を建設しただけで工事は進んでいない。南側の海域(41ヘクタール)ではかさ上げも含め工事がほぼ完了している。
政府は、辺野古に移設することで普天間飛行場の危険性を解消し、在日米軍の抑止力や対応力は維持できるとしている。近年は海洋進出を強める中国を念頭に、日米にとって沖縄の戦略的重要性が高まっている。【内橋寿明、比嘉洋】