震度7が観測された石川県を中心に、広範囲で津波が確認され、一部地域で大規模火災が発生した今回の能登半島地震。津波については迅速な対応がみられた一方、乗用車による避難で渋滞が生じた地域もあった。また、これまでの大地震で懸念されていた古い木造住宅密集地で火災が拡大するなど、改めて課題が浮き彫りとなった。
気象庁は1日午後4時22分、震源地に近い能登地方に大津波警報を発令。同県輪島市の輪島港では120センチ以上の津波が観測されたほか、北海道から九州の日本海側で津波が確認された。
2日に同県珠洲(すず)市を視察した馳浩知事は市内の飯田港周辺で海岸から100メートルにわたり浸水し、住宅に被害が出たと明らかにした。ただ、近年能登半島付近では震度5弱以上の地震が相次いでいたことなどから、住民らの津波に対する防災意識も高かったとみられ、各地で迅速な避難がなされた。
同県宝達志水(ほうだつしみず)町では、携帯などで緊急地震速報が流れ、大津波警報が発令後まもなく、町の防災無線で避難を呼びかけたため、これを受けて住民の多くが高台に向けて移動した。
今回の津波に対する避難について、東京大大学院の片田敏孝特任教授(避難対策)は「地震発生後、短時間で津波が到達したが、大きな揺れが避難の必要性を住民に喚起し、積雪が少なかったことも速やかな避難につながったのではないか」と分析した。
津波の警報や注意報は2日午前までに解除されたが、断続的に地震が続いており、片田氏は「自宅の様子が気になる被災者も多いと思うが、特に沿岸部では引き続き最大限の注意を払う必要がある」としている。
迅速に避難する住民が多かった一方で、避難の際に乗用車を使用する住民が多く、高台に通じる道路が一時渋滞になったという。
こうした現状に対し、神戸大の室崎益輝名誉教授(防災計画学)は、平成5年に発生した北海道南西沖地震の際、奥尻島内では車で避難する住民が渋滞で足止めされ、津波に巻き込まれたケースが相次いだことを指摘。「近隣住民らで乗り合わせて避難車両を減らし、渋滞が起きれば車を降りて避難することが重要」とする。
一方、同県輪島市の観光名所「輪島朝市」では地震後に火災が発生した。木造などの古い建物が密集した地域で約200棟に延焼。2日午前にほぼ消し止められたが、広範囲のため被害の把握が困難となっている。
室崎氏は、道路の寸断や断水などで初期消火が遅れたことが火災を拡大させた一因ではないかと推測。阪神大震災などで問題視されてきた古い建物の密集地については「高齢者が多い地域では所有者が分からない古い空き家の木造住宅も多いため、行政が主導して解消に取り組む必要がある」と話した。(山本考志)