水、暖房も使えず「今はできることを」 “非常時”続く能登総合病院

「今はあるもので、医療を提供していくしかない」。能登半島地震で大きな被害が出ている石川県七尾市の公立能登総合病院は、地域の中核病院として地震直後からけが人などの対応に追われている。水を十分に確保できず、手術は中止し、暖房も使えない状況だ。地震後の状況について、喜多大輔副院長(52)が毎日新聞の取材に応じた。
脳神経外科医の喜多副院長は1日午後、入院患者の状態を確認するため病院へ入った。その直後、大きな揺れに見舞われた。医局の研究室の天井から、スプリンクラーの水が降り注ぎ、天井材は崩れ落ちた。磁気共鳴画像化装置(MRI)室の壁にかけてあった時計は落下し、同県志賀町で震度7を観測した「4時10分」過ぎで針が止まっていた。
能登総合病院は災害拠点病院に指定され、事前に災害時対応の訓練を繰り返していた。それに従い、直ちに2階にある外来患者用ロビーの椅子を移動し、簡易ベッドを並べた。患者の症状に合わせて対応する「トリアージ」を実施するため、「緑(軽症)」「黄(中等症)」「赤(重症)」と、症状ごとに区域を分けた。
患者は救急車や家族に連れられ、続々とやってきた。4日までに185人が来院し、緑144人、黄32人、赤8人、黒(死亡)1人だった。
停電は免れたものの、水が出なくなった。大量の水が欠かせない人工透析の患者は、県内の複数施設で受け入れてもらうことになった。手術もできなくなったが、他地域から応援に駆けつけた災害派遣医療チーム(DMAT)の調整によって対応できる施設へ搬送し、必要な治療を受けられるようにした。
入院患者の食事や飲み物は備蓄でまかない、トイレは尿取りパッドを使うなどして対応した。
訓練はしていたものの、見落としていた点もあったという。
病院の救急車の搬入口は1階にある。搬入した患者を最初に受け入れる場所は、2階のロビーとしていた。ところが、今回の地震ではエレベーターが使えず、当初は担架に乗せた患者を何度も階段で運びあげることになった。途中から、救急車をロビーの入り口へ横付けするよう変更したという。
4日になって水の供給が部分的に復旧し、トイレも一部で使用可能になった。電気も確保できている。
だが、地震で病院の受水槽が使えなくなり、水道からの給水は再開できていない。暖房は、蒸気を循環させるシステムを使っているため、使えないままだ。職員は服を着込み、患者のいる病棟では電気ストーブで寒さをしのいでいる。
自宅が地震で壊れ、避難所から通う職員もいる。子どもたちが通う学校や保育所の再開が遅れれば、勤務時間を短くしなければならない職員が出てくる可能性もある。喜多副院長は「今は、事態を乗り切ることで精いっぱい。与えられた環境で、できることをやるしかない、と考えている」と話す。
七尾市より北の医療機関も心配だという。
「ここまでは支援物資が届いているが、能登半島北部では、病院自体が機能できない状況になっている。輪島市や珠洲市の病院は電話も通じず、患者を支えるための相談もできない。現状把握にも苦労している」(喜多副院長)。通常であれば輪島市まで車で1時間程度だが、現在は道路の渋滞などで4時間程度かかっているという。
週末以降は、気温が下がり、雪が降る可能性もある。喜多副院長はこう訴えた。
「水が不足すれば、トイレの環境が悪化したり手洗いが不十分になったりして、感染症が拡大しやすくなる。風邪や下痢の増加も心配だ。北陸の冬は厳しく、避難所生活が長丁場になれば、健康を損なう人が増えかねない。きめ細やかな支援と医療の提供が必要になる」【永山悦子】

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