能登半島地震で甚大な被害を受けた石川県珠洲市内では、倒壊した家屋の下敷きになった90代の女性が地震発生から約124時間ぶりに救出された。救助活動に携わった福岡県警の広域緊急援助隊の隊員たちが10日、福岡市博多区の県警本部で取材に応じ、過酷な状況下でたぐり寄せた「奇跡の救出劇」を振り返った。
石川県の要請を受け、福岡県警は4日、救助技術を身に付けた機動隊員ら約80人で編成する援助隊を被災地に派遣。第1機動隊の四ケ所和佳隊長が部隊長を務め、5~7日の3日間、現地で活動した。
被災者の生存率が急激に下がるとされる「発生から72時間」が過ぎる中、救出劇の呼び水となったのは、避難所での地道な情報収集だった。通常、援助隊は救助活動に専念する例が多いが、「あまりに被害が広範囲で、石川県警の情報収集が追い付いていないようだ」と感じた広瀬啓太・小隊長(32)は、隊員に避難所での聞き取りを指示。すると、被災者らから「家の中で逃げ遅れている女性がいる」との有力な情報が寄せられたという。
6日午後1時ごろ、急行した現場で目にしたのは、1階部分が完全に潰れた状態の2階建ての木造家屋だった。2階部分の窓枠を外して内部に入り、女性が普段使っていた部屋の辺りへ慎重に歩を進めた。
「発見!」。無線に隊員の大きな声が響いたのは午後4時過ぎ。女性は床板に挟まれ、上半身だけが見える状態だった。だが、時折まばたきし、隊員の声掛けにうなずくようなそぶりも見せた。「家族が待ってますよ」「頑張れ」。励まし続ける隊員たち。最前線にいた牧朔太郎隊員(23)は女性の冷えきった手を握り「絶対に救助しないといけない」と思ったという。
その後は警視庁の部隊も加わり、懸命の救出作業が続いた。女性の周囲のがれきをのこぎりやバールを駆使し、撤去。倒壊した家具などに長時間圧迫されて血管が損傷し、敗血症などを引き起こす「クラッシュシンドローム(挫滅症候群)」にも備え、医師が酸素ボンベを使いながらの作業だったという。
女性の搬送が完了したのは発見から4時間後となる午後8時20分ごろ。相次ぐ余震で4回の作業中断を余儀なくされたが、女性は受け答えできる状態まで回復していた。冷たい雨が降りしきる中、懸命に活動した隊員たちは汗だくの状態だったという。
これまで豪雨災害の被災地での活動経験はあったが、地震による倒壊家屋での救助活動は未経験の隊員が大半だった。現場で隊員をまとめた舟川和希中隊長は「今後も派遣される機会はあるはず。被災者に寄り添って活動していきたい」と語った。【近松仁太郎】