屋外の仮設トイレ、寒さや臭いが課題…我慢してエコノミークラス症候群の恐れも

能登半島地震の被災地では、水道の復旧が進まず、いまだ水洗トイレを使用できずにいる。避難所には仮設トイレが続々と設置されているが、使いづらいと用便を我慢する避難者もいる。過去の災害では、トイレの衛生環境の劣悪さから、避難者が感染症やエコノミークラス症候群で体調を崩すケースが相次いでおり、専門家は注意を呼びかけている。
全国から689基

厚生労働省によると、地震による断水は一時、石川や富山など6県で計約13万5000戸に及んだ。12日朝の時点でも、石川県と富山県の約6万戸で断水が続いている。避難所になっている各地の小中学校や公民館のトイレも水を流せず、地震発生当初は便器に便がたまって悪臭が漂い、劣悪な衛生状態になった。
政府は急ぎ、全国各地から順次、仮設トイレを避難所に送り、その数は12日時点で689基に達した。また、被災地のし尿処理施設のほとんどが稼働を停止したため、仮設トイレからし尿を回収するバキュームカー約40台を派遣。仮設トイレから回収したし尿を、損壊を免れた処理施設に運んでいる。
避難者約600人が身を寄せる石川県 珠洲 市立宝立小中学校でも断水で便器が詰まり、全ての水洗トイレが使用不能になった。3日頃から仮設トイレが届き始め、いまは約20基が設置されている。同市の飲食店店長(53)は、「温水洗浄の便座もあり、利用しやすい」と喜ぶ。
屋内で袋に排便

だが、冬本番を迎えた被災地で、冷たい風が吹きすさぶ屋外の仮設トイレまで足を運ぶのは、避難者には大きな負担だ。
同県輪島市の市ふれあい健康センターには、屋外に9基の仮設トイレがある。しかし、ある避難者の女性(76)は足が悪く階段の上り下りがつらいため、屋内のトイレでポリ袋の中に用を足しているという。女性は「屋外に出るのがしんどいし、仮設トイレは中が暗くて、臭いから」と理由を語る。
市は仮設トイレの使用を呼びかけているが、さほど使われていない避難所もある。袋に排便する避難者が後を絶たず、汚物が入った袋は市職員らが随時、近くに掘った穴に捨てているという。市の担当者は「仮設トイレを利用してほしいが、避難者のストレスになってはいけないので、強くは言えない」と話す。
感染症にも注意

兵庫県などによると、1995年の阪神大震災や2011年の東日本大震災では、トイレの回数を減らそうと、水分摂取や食事を控えた結果、血栓が発生して「エコノミークラス症候群」を発症したり、脱水症状や栄養失調になったりした避難者が相次いだ。また、16年の熊本地震では、トイレが感染源とみられるノロウイルスの集団感染が発生した。
災害時のトイレ事情に詳しい「災害・仮設トイレ研究会」の谷本亘・副代表幹事は、「食事や水分の摂取を減らすと、免疫力が低下してしまう。健康を保つため、トイレを我慢せず、小まめな手洗いや手指の消毒を徹底してほしい」と指摘する。
トイレトレーラー活躍

避難所には、災害時用として近年注目を集める移動式の水洗トイレ「トイレトレーラー」が全国から続々と駆けつけている。
大阪府箕面市は地震発生直後にトレーラーの派遣を決定。市職員2人が交代で運転し、約9時間かけて3日夜に石川県七尾市の市立中島小に到着した。約250人が避難していた同小のトイレは、地震発生とともに断水で水を流せなくなっており、トレーラーが到着すると、すぐに避難者らが列を作った。
車内には洋式の水洗トイレと洗面台を備えた個室が4室ある。水洗用の水を約400リットルためられ、し尿タンクが満杯になるまで約1250回使用できる。室内を明るく照らす照明器具の電源は、屋根の太陽光パネルだ。
トイレトレーラーは、大規模災害時に被災地に集結させ、トイレ不足を解消する狙いで、一般社団法人「助けあいジャパン」が全国の自治体に導入を呼びかけている。今回の地震では12自治体が1台ずつトレーラーを送り、輪島市や珠洲市などの避難所に設置された。同法人の担当者は「心身ともに疲労がたまった避難者のため、清潔なトイレの環境整備が急務だ」と強調する。

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