自民党派閥のパーティー券収入不記載事件で、東京地検特捜部が、安倍派(清和政策研究会)の「5人衆」や事務総長経験者ら幹部の立件を見送る方針を固めたとみられる。全国からエース級検事らの応援を集めた大規模捜査がこれで終わりなら〝尻すぼみ〟の感もぬぐえない。だが、元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士は、特捜部が狙う「別の本丸」があるとの見方を示す。
特捜部は、パーティー券収入から多額の還流(キックバック)を受けていた池田佳隆衆院議員(比例東海、党から除名)らを政治資金規正法違反容疑で逮捕した。同じく還流額が多い大野泰正参院議員(岐阜選挙区)と谷川弥一衆院議員(長崎3区)、さらに安倍派と二階派(志帥会)の会計責任者も同法違反容疑で立件する見通しだ。
一方で安倍派の「5人衆」や事務総長経験者、会長代理ら7人の幹部については、会計責任者との共謀は認められないとし、不起訴の方針も浮上している。事務総長経験者らは特捜部の任意の聴取に、還流について事務方から派閥会長に直接報告される「会長案件」だったと供述しているとも報じられた。
若狭氏は「安倍晋三元首相が会長だった当時、還流のとりやめを指示したが、安倍氏が死去した後に復活した経緯も浮上するなど『会長案件』といえない経緯も出てきた。特捜もそこを狙っていたが、証拠不十分だったのではないか」と指摘する。
1992年の東京佐川急便事件では、5億円の「闇献金」が発覚した金丸信元副総裁が、事情聴取を受けないまま「罰金20万円」の略式命令を受けた。世論の批判が強まるなか、金丸元副総裁は93年に脱税で逮捕され、金丸邸の金庫から金の延べ棒などが押収された。
2004年に発覚した自民党旧橋本派が日本歯科医師連盟(日歯連)から受け取った1億円を政治資金収支報告書に記載しなかった事件では、村岡兼造元官房長官が在宅起訴されたが、逮捕されたのは会計責任者のみだった。
小沢一郎衆院議員の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる虚偽記入事件では、元秘書の石川知裕衆院議員(当時)が逮捕・起訴された。小沢氏は検察審査会の議決を受けて強制起訴されたが、その後無罪が確定した。
今回の捜査はどこへ進むのか。
若狭氏は「大規模な態勢の狙いはパーティー券の還流に関する捜査だけでなく、政治資金関係で、より深い別の事件を追っている可能性がある。特捜部の『完全敗北』で終わりということにはならないのではないか」と話した。