大阪の繁華街・ミナミ。メインストリートの御堂筋周辺では、地元の商店や住民らが、路上にあふれる放置自転車に悩まされてきた。これまでにも官民が連携して対策を練ってきたが、根本的な解決には至っていなかった。こうした現状に、大阪市は昨年、放置自転車を見つけ次第、即時撤去する新たな対策を開始。長年の悩み解消に向けた〝特効薬〟として地元の期待が高まっている。
チェーンロックも切断
「ごめんなさい、すぐにどかします。ほんまにすみませんでした!」
小走りでやってきた女性が撤去されそうになっていた自転車を受け取り、平謝りで去っていく。作業をしていた市職員は「禁止区域に止めるのはやめて、駐輪場を使って」と注意した。
市は令和5年11月から、放置自転車を即時撤去する「リアルタイム撤去」を試験的に行っている。初回は同13日午前、中央区西心斎橋周辺で実施。御堂筋にほど近く、多数の放置自転車がある路上で市職員らが作業を開始した。
周辺に「条例に基づき、撤去作業を行います」というアナウンスを流しつつ、市職員が放置自転車に赤い警告用の札を貼っていく。
〝しるし〟が付けられた自転車は、次々とトラックの荷台へ。盗難を防ぐため柵と高級自転車をつないでいた太いチェーンロックは容赦なく工具で切断され、あっけなく収容。近年、よく見かけるようになったシェアサイクルや電動キックボードも対象となった。
ものの10分で計16台の自転車と電動キックボードがトラックに乗せられた。この日だけでも、トラック2台分の自転車やミニバイクなどを撤去した。
「駐輪場」と化した歩道
撤去された自転車は、市が保管。返却してもらうには、保管所で自転車は2500円、ミニバイクは4千円の保管料を納める必要がある。20日を経過しても引き取りがない場合は市が処分する。
少々、無慈悲にも思えるこの取り組み。なぜ、ここまでしなければならないのか。背景には、放置自転車に悩まされてきた地元の声があった。
中央区周防町会長の中村芳弘さん(61)は「駐輪が禁止されている場所なのに、なぜすぐに撤去できないのかと長年悩んでいた」と明かす。
ミナミは、買い物客や外国人観光客らで昼夜問わずごった返しているが、歩道には放置自転車があふれ、駐輪場と見まがうほど。また、飲食店や衣料品店が並ぶアメリカ村では放置自転車に加え、商店の看板も路上に置かれ、車道を通らざるを得ない歩行者もおり、安全面で懸念があった。
市はこれまで、放置禁止区域の自転車に警告札を貼った後、一定時間の猶予を与えたうえで撤去していた。4年度にミナミエリアで撤去された放置自転車は約1万1千台、市域全体では約8万9千台に上った。だが、撤去しても新たに別の自転車が放置され、抜本的な解決には至っていなかった。
半数が1~7時間放置
市と地元商店街が昨年9月にミナミエリアの放置自転車1533台について調査したところ、約半数が「1~7時間未満」、約3割が「1時間未満」駐輪していたことが分かった。買い物やアルバイトの際に自転車を短時間放置し、警告札が付けられていても別の場所に移動させているケースが目立った。
そこで、リアルタイム撤去の導入に踏み切り、昨年は計30回実施した。今後は範囲を広げたり、トラックの台数を増やしたりする予定という。
市担当者は「利用者に即座に撤去されるかもしれないという意識を持ってもらうことで、放置自転車を抑制する効果を高めたい」と話す。一方で、ミナミエリアには市営と民間合わせて約4千台分の駐輪場があり、利用の徹底を呼びかけている。
中村さんは「外国人観光客も増加している中で、誰もが過ごしやすい街になってほしい」と期待を込めた。(石橋明日佳)