《能登半島地震》NHKが薬購入について“勇み足”報道 被災地の薬局に被災者が殺到する大混乱

1月1日に発生した能登半島地震。多くの住民が避難所生活を送る中、自宅の損壊で常備薬が取り出せなくなっている避難民もいた。現地で病を抱えながら不安な毎日を過ごす人たちのため、地元の病院や薬局も奮闘しているが、報道を急いだメディアから出たニュースが“勇み足”となり、現地で混乱を起こしたケースもあった。
2日のNHKニュースが “勇み足”に
石川県下で薬局チェーンを展開するEHM社は、14店舗のうち能登地区の2店舗が被災したが、1月4、5日から営業を再開した。同社執行役員の四反田耕司氏が語る。
「この地域は薬局の数が少なく、もともとかかりつけの患者様が多い。生活習慣病を抱える人もいて、継続的な薬の管理が必要なので、少しでも早く営業しました。スタッフも自宅が被災したり、避難所から通ったりしていますが、比較的円滑に営業ができています」
そんななか、現場を悩ませる問題があったという。大地震発生を受け、厚生労働省は1月2日、被災地での医薬品の取り扱いに関する通知を出した。これを同日、NHKは〈石川県内の被災地 医師の処方箋なくても薬局で薬購入可能に〉と題してこう報じた。
〈被災地では医師の処方箋がなくても薬局で薬を購入できると厚生労働省から2日、連絡があったということです。対象は野々市市と川北町を除く県内の17の市と町〉
この一報に接した被災者が薬局に殺到し、混乱を招いているというのだ。
現在、被災地では道路が寸断されるなどの理由で、医療機関を受診して医師から処方箋を受け取ることが難しい人たちがいる。かかりつけ医が被災して受診できないケースもある。通知はそうした事態を念頭に置いたもので、同省が各都道府県や首長宛てに発出した内容をNHKなどが報じた。
ただ、四反田氏らが営業する薬局の周辺地域では医療機関は稼働しているため、厚労省が通知した措置には当たらない。NHKの報道は条件への言及が不十分で、“勇み足”だったのだ。
「薬局の窓口では、医療機関を受診できる場合は今回の通知に該当しないことを丁寧に説明しますが、『テレビでやっていた』と声を荒らげる方もいらっしゃると現場からは聞きます。報道を問題視したいわけではないのですが、被災地域の同業者とも、同様の騒ぎが起きていると報告し合ってます」(四反田氏)
厚労省も問題を把握
厚労省医薬局総務課の担当者が説明する。
「正式に報告が来たわけではありませんが、テレビなどで報道され、通知の内容を誤解される方がいらっしゃることは聞いています。NHKさんの報道から広がったようなので、同局には、伝え方を工夫していただくようお願いしました」
NHKの記事は訂正の告知がないまま修正され、処方箋なしでも薬が受け取れる条件が追記された。
NHKに聞くと、「取材に基づいて報道しましたが、その後より詳しい内容に差し替えました。今後もより丁寧な取材を続け、被災地の方々に役立つニュースを届けてまいります」(広報局)との回答だった。四反田氏はこう語る。
「現在、被災地域では氏名、住所、生年月日、性別などがわかれば、過去の医療情報を検索できる『災害時医療情報閲覧機能』が限定的に使用できるようになっています。もちろん体調やお薬のご相談は、お越しいただければお受けします」
※週刊ポスト2024年1月26日号

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