能登半島地震の発生後、避難所を避け車中泊を続ける人がいる。車は駐車場や路上に点在するため実態把握が難しく、避難所で配られる生活用品や自治体の支援情報が届かない恐れがある。車内生活の長期化により、足の静脈に血栓ができるエコノミークラス症候群発症の懸念も。石川県は、避難所以外で暮らす被災者に連絡先の登録を呼びかけている。
「どこに落ち着けば」
1月末、同県輪島市の市立鳳至(ふげし)小学校グラウンド。駐車エリアには車中泊避難者が十数人いた。どの車も後部座席は毛布と日用品でいっぱい。サイドミラーに洗った服がかかっている車もある。
一人で車中泊を続ける男性(75)は「(避難所の)体育館は人目があって落ち着かない。寒い日の夜や体を伸ばして寝たいときは体育館に行くが、今も双方を行き来している」と話す。自宅に戻れず「やはり暖かい家で寝ないと疲れは取れない。この後どこに落ち着けばいいのか」と途方に暮れた様子だった。
車中泊を選ぶ避難者は新型コロナウイルス感染などを避けたい高齢者のほか、乳幼児やペットを連れた家族が多いが、自宅駐車場や路上に止めた車を拠点にする場合もあり、実態把握が難しい。支援情報を届けるため、石川県は、避難所以外で生活する人向けに連絡先の登録窓口を開設した。1日時点で車中泊の登録者は105人。
「体動かして」と注意喚起
健康上の懸念もある。体を動かしにくい車中泊が続くと、エコノミークラス症候群になるリスクが高まるためだ。
「長時間同じ姿勢でいると血流が悪くなり、血栓ができてしまいます。体を少しでも動かしてください」
1月中旬に日本看護協会の「災害支援ナース」として被災地入りした三田村裕子さん(46)は輪島市の避難所で、避難者の健康状態をチェックし、車中泊をしている人にこう呼びかけた。
発災後、日本看護協会は延べ2千人以上の災害支援ナースを石川に派遣し、感染症対策や診療介助、心のケアにあたっている。
三田村さんらのチームは朝と夜の2回、避難者が生活を送る車を巡回。血栓予防のため、弾性ストッキングの着用や定期的な水分摂取を伝えて注意喚起を図った。三田村さんは「車中泊を選ばざるを得ない人もいる。体調悪化や血栓ができるリスクを減らすためにも、定期的に声をかけるのが重要だ」と強調した。
熊本地震で続出
車中泊避難者は平成28年の熊本地震で続出し、災害関連死が相次いだとされる。
熊本県が28年の調査で避難者約2300人に避難場所(複数回答)を尋ねたところ、約7割の1500人余が「自動車の中」と答えた。理由(同)は「余震が続き、車が一番安全と思った」が最多で「プライバシーの確保」「子供や体が不自由な家族がいた」が続いた。
避難期間別に①3日未満②3日~1週間③1週間~1カ月④1カ月以上-の避難場所をみると、車中泊の割合は①~③で市町村の指定避難所や公共施設などの指定外避難所、親戚・知人宅を上回り、最も高かった。
エコノミークラス症候群になりやすい車中泊は災害関連死の一因と考えられ、内閣府は昨年夏、車中泊避難者らへの支援のあり方を協議する有識者検討会を立ち上げた。
検討会では、都市公園や道の駅などを車中泊の避難場所として指定・公表し、誘導する案が出たほか、平時から車中泊の危険性を周知する必要性が指摘された。論点整理に入っていたが、能登半島地震への対応を優先し議論は中断している。
検討会メンバーで、能登半島地震の被災者支援に関わる認定NPO法人「全国災害ボランティア支援団体ネットワーク」(東京)の明城徹也事務局長は車中泊避難について、自治体からは推奨しづらいと指摘。一方で、一定数の避難者は出るとして「車中泊避難者をどう把握し、いかに健康を管理し支援を届けるかといった点が課題。対策は急務だ」と話した。(鈴木源也、藤木祥平)