海保が絶対に海警に負けてはならない理由 「第2海軍化」する中国海警と最前線で対峙、奥島高弘氏「攻めるより、守る方が何倍も難しい」

沖縄県・尖閣諸島の周辺海域で、連日のように航行する中国海警局の船に対して、警備活動を行っているのが海上保安庁の巡視船だ。日本の安全保障環境が厳しさを増すなか、2022年まで海上保安庁長官を務めた奥島高弘氏(64)が、夕刊フジのインタビューに応じ、尖閣周辺の最前線で海保が続ける〝戦い〟の実態を明かした。「海の警察・消防」とも呼ばれる海保だが、奥島氏は「絶対に海警に負けてはならない」とし、その真意を語った。
01年12月、鹿児島県・奄美大島沖の東シナ海の日本の排他的経済水域(EEZ)内で、海保の巡視船が北朝鮮の工作船を追跡中に激しい銃撃戦となった。自動小銃やロケット砲の攻撃を受けて、海保側の乗組員3人が負傷した。
「この船の防弾強化はまだ間に合っていなかった。船長は『ああ、戦争ってこんな感じになるんだなと思った』と証言している。相手がバババッー!と自動小銃を撃ってくるなか、若い保安官は身を乗り出して冷静にビデオ録画を続けていた」と奥島氏は振り返る。
その後、海保は中国船への対応に追われるようになる。日本が尖閣を国有化した12年当時、奥島氏は領海警備対策官として最前線で中国船と対峙(たいじ)した。
「海保の操船技術は世界のコーストガード(沿岸警備隊)でもトップレベル。当時は現場で『海保の方が強い。勝てる』と思った。相手は操船も未熟で、天候が悪くなるとサッと引き上げ、ベタなぎになるまで出航してこなかった」
「第2海軍化」する中国海警
中国は13年に海警局を発足させた。18年には、海警局は国家海洋局から中央軍事委員会に所属する人民武装警察(武警)の配下となり、海警トップも文民から海軍出身の軍人に代わった。19年以降は、連日のように接続水域や領海内で海警船が確認されるなど活動は活発化している。
「この10年で、海警側もこちらの動きを学んで操船がうまくなった。悪天候でも尖閣から帰らなくなり、侵入期間が長期化するようになった」
1000トン以上の大型船の保有隻数でも逆転され、22年時点で海保71隻、海警157隻と大きな差が付いた。海保の搭載武器は40ミリ機関砲が最大だが、海警は76ミリ機関砲を持つなど武装化も進めている。
中国の海警が「第2海軍化」するにつれ、日本でも海上自衛隊との「一体化」を求める声があるが、奥島氏は海保の「軍事組織化」を強く否定する。
「われわれの任務は警察活動であり、絶対に軍事活動と認定されることをしてはいけない。国民保護を行う巡視船が攻撃目標になってしまうし、尖閣で中国側に開戦の口実を与えることにもなる。『戦争を起こさずに事態を収める』ことがわれわれの任務だ。海保で対処ができずに海自に交代すれば、中国は待ってましたと言って海軍を出す。だから海保は絶対に海警に負けられない」

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