家畜伝染病の一つで国内では未確認の「アフリカ豚熱(ASF)」の侵入リスクが、かつてないほど高まっている。1月に韓国の釜山港近くで野生イノシシの感染が確認され、感染が拡大する中華圏では旧正月「春節」の大型連休が2月10日から始まる。新型コロナウイルス感染症の収束以降、増加する訪日客にASFウイルスが付着し、持ち込まれる懸念が強まっているのだ。豚とイノシシの伝染病であり、人に感染することはないが、感染すると致死率ほぼ100%。現時点で有効な治療法がないとされ、国内の養豚業界は戦々恐々としている。
「キンパ」からも感染懸念
「(ASFは)一度侵入を許すと、わが国の畜産業に壊滅的な被害を生じることになる」。坂本哲志農林水産相は2日の閣議後記者会見で危機感を強調し、訪日客や帰国する日本人の靴の消毒の強化など水際対策を徹底する方針を示した。
肉製品の食べ残しから野生イノシシに感染が広がる恐れもある。そのため、生の肉やソーセージのほか、韓国の手巻きすし「キンパ」などに紛れてASFに感染した豚肉が持ち込まれる可能性があるとし、韓国からの船と航空便で検査を行う家畜防疫官や空港や港の探知犬を増強した。
ASFは、日本で感染が相次ぐ豚熱(CSF)とはウイルスの種類が異なる別の病気だ。1909年にケニアで初めて確認され、アフリカや欧州で広く発生した。2018年8月にはアジアで初となる感染が世界最大の豚の生産国である中国で判明。豚の飼育頭数が一時約4割減り、推定1000億ドル以上の損失が生じたとされる。
今年1月までに韓国や香港、インドなど地域に感染が拡大している。ちなみに豚とイノシシの伝染病であり、人に感染することはない。
ベトナム製ワクチン推奨されず
高熱や元気減退など症状はCSFと似ているが、ASFの大きな特徴は強い感染力と、ほぼ100%とされる高い致死率。そして、現時点で有効なワクチンや治療法がないことだ。
CSFやAFSは感染した豚やイノシシの唾液や糞尿中にウイルスが排泄され、それと接触することで感染が拡大する。ウイルスは死骸で数カ月以上、冷凍の場合でも1000日以上も感染力を維持する。さらにAFSはダニによる媒介感染も確認され、感染による急死も散見されている。
AFSのワクチンについては、ベトナムで開発され接種された事例もある。ただ、専門家からは、接種後の豚の体内で毒性のある新たなウイルスの発生につながる懸念などが指摘されており、多くの国で使用は推奨されていないのが現状だ。
国内で野生イノシシのAFS感染が確認された場合、半径3キロ圏内に他の死んだ個体がないか捜索、周囲に電気柵やわなを設置し感染拡大を防止する。また、農場の豚の感染が確認された場合は、発生農場だけでなく、未感染の家畜も含めて一定範囲内の家畜を殺処分する「予防的殺処分」の対象としている。