びっくりした。国会で自民党派閥の政治資金規正法違反事件が議論されているが、驚いたのがこのニュースだ。
『「裏金」表記巡り 自民反発』(読売新聞・1月30日)
国会では質問者がパネルをよく使っているが、野党の質問者のパネルに記載された裏金の表記を巡って自民側が「裏金問題と断定的に書かれるのは適切ではない」と反発して紛糾したという。
え???
そういえば岸田首相も国会の答弁で「裏金の定義もしっかり確認しなければならない」(1月29日)、「(裏金の定義は)一概に答えることは困難」(2月2日)と答えていた。
う、裏金の定義、そこからですか?
自民党のナゾ抗議
政治評論家の有馬晴海氏は、
《「裏金の定義を確認しないといけない」と言っていたが、帳簿に載っていないカネは裏金だ。》(1月30日・山梨日日新聞)
あっさり裏金の定義を述べていた。そりゃそうだ。
しかし31日の衆院本会議での代表質問でも、立憲民主党の泉健太代表が辞任した政務官2人(安倍派)について「裏金をもらっていた」と批判した際、「『裏金をもらった』という表現はおかしい」と自民党は抗議していた。
パーティー券を売った一部をキックバックしてもらって不記載にして金を貯めていたのだからこれは裏金だ。その裏金を何に使っていたのか、どんな効果があったのか、党として説明することからが第一歩なのに「裏金と言うな」からスタートするなんて。
それだけではない。岸田首相は議論をする場の国会で意味不明なことを言い続けている。政治資金規正法改正に関して問われると「真摯に議論する」「各党と議論していく」と繰り返すばかり。いや、そこ、国会ですよ。岸田首相は国会に気づいていないフリをしている。
いかにも手慣れた慣習
さて裏金問題は安倍派が目立ったが、先週は安倍派の元事務総長・下村博文氏が会見した。不記載額は476万円だったが、初めて「キックバック」を知ったのは2022年4月だという。最近ではないか。本当だろうか。ではここで毎日新聞のスクープを見てほしい。
『安倍派、還流を「戻し」と伝え現金手渡し 議員側も裏金認識か』(2023年12月16日)
安倍派ではキックバック、還流を「戻し」という言葉を使っていたという。本当ならいかにも手慣れた長年の慣習であることがわかる。となると安倍派のベテラン下村氏も“戻し”を知っていた可能性は高い。しかし“キックバック”は知らなかったという。まるでご飯論法である。
※ご飯論法とは法政大学の上西充子教授のTwitterから広まった言葉。「朝ごはん食べましたか」と聞かれて、パンを食べたけれども米(ご飯)は食べなかったので「食べてきませんでした」とごまかして答える話法のこと。
池上彰「WEB 悪魔の辞典」では次のように書かれている。
〈【ご飯論法・ごはんろんぽう】 質問に真正面から答えず、論点をずらして逃げるという安倍政権特有の論法。〉
つまり下村氏はこの10年ぐらいの安倍派を象徴する振る舞いをしていたのではないか。
そもそもなぜ安倍派に裏金問題が多いのだろう?
文教&宗教に目を向けた
旧統一教会問題が再び注目された時期に、私は自民党の集票力についてベテラン記者に聞いたことがある。それによると昭和に保守本流と呼ばれた宏池会(岸田派)は大企業、竹下派(現・茂木派)は建設などの業界団体をおさえていた。それに対して傍流だった清和会(安倍派)は文教&宗教に目を向けた。※旧統一教会問題で注目されたのがまさに安倍派の文教&宗教だった。
この話を頭に入れて、傍流だった清和会が一気に逆転した2000年代を思い出してほしい。小泉純一郎、安倍晋三といった「客が呼べる」首相を誕生させた清和会が、パーティー開催にカネ集めの活路を見出す様子が目に浮かばないだろうか?
昨年の週刊文春(12月21日号)にも同様の証言がある。
《「森会長時代に小泉純一郎という国民的人気の高い首相を生み出し、一気に党内主流派に。しかし上辺の国民人気だけで勢力を拡大させた派閥だけに、いくら金看板を磨いても、一皮剥けば膿だらけだったといえます」(政治部デスク)》
ここでいう森会長とは森喜朗のことだ。
裏金文化は「森さんから始まった」
さらに、
《安倍派は「森さんから始まった」と言われる裏金文化を綿々と続けることになったのだ。そうした文化が生んだ裏金は、きわめて高額に達している。》(同前)
と報じられている。しかし呆れるのは裏金問題が発覚したあとの安倍派の態度だ。
《この節目に、安倍派は記者会見の要請に応じず、1枚紙のコメントで済ませた。不記載の総額などを示しただけで、「詳細は総務省のホームページで訂正された収支報告書をご覧ください」というのだから、ふざけている。》(朝日新聞社説2月2日)
「ふざけている」と書かれても、問題は終わったとばかりにニヤニヤしている安倍派幹部の様子が国会ニュースなどで確認できた。有権者はどうせ忘れると高を括っているのだろうか。
裏金問題を風化させない「アイディア」
それなら、裏金問題を忘れないように今後は名前の後に不記載額を表示したらどうだろう。直近の役職の代わりに。
・萩生田光一前政調会長→萩生田光一2728万円 ・松野博一前官房長官→松野博一1051万円 ・高木毅前国対委員長→高木毅1019万円
というふうに。
これだと忘れることはない。そして「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」という、2019年の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、検察が河井克行元法相の自宅から押収したというメモも一緒に思い出せる。あの数字もまさに見えない政治とカネの話だ。「すがっち500」も「萩生田2728」も決して風化させてはいけないのである。
(プチ鹿島)